石坂典子『五感経営 産廃会社の娘、逆転を語る』2016、日経BP社

お薦め読者層:廃棄物処理業の経営者や後継者

読みやすさ:大変読みやすい

私が読んだ本の中から廃棄物処理業者にお薦めする本をご紹介するコーナー。

今回は、産業廃棄物中間処理業者の2代目女性社長である石坂典子さんによる、

経営や仕事について書かれた著作です。

この記事の目次

  1. 焼却施設に対する地元反対運動と経営危機
  2. 地域住民、地域環境と産廃処理業との共生
  3. 里山やホタルの生息する公園に囲まれた中間処理場
  4. 本書第2、第3の軸が読者層を広げている
  5. 産廃業界におけるマーケティング3.0の模範事例

 

焼却施設に対する地元反対運動と経営危機

著者の石坂さんの父親は、産業廃棄物中間処理業を営む石坂産業の創業者でした。

石坂産業は、当時廃棄物の焼却施設を持っていました。

 

ところが、地域住民から焼却施設による環境汚染を懸念され、

地元では石坂産業の処分場運営に対する反対運動が起きてしまいました。

この地域住民による反対運動は、

石井産業の中間処理業許可取消を求めるものでしたので、

まさしく経営危機ということでした。

 

地域住民、地域環境と産廃処理業との共生

石坂産業では、地域住民との共生を図るために、

焼却事業から完全撤退し、

より環境負荷の少ない廃棄物の選別事業へと業種転換することになります。

 

このとき廃炉にした焼却炉は、年式が新しく環境負荷の低いものであったそうですが、

それを廃炉にしてまでの業種転換でした。

 

里山やホタルの生息する公園に囲まれた中間処理場

その後、処分場周辺の地域環境の保持のために、

石坂産業は以下のような取組を行いました。

  • 荒廃していた里山を保全
  • 住民が自由に立ち入れる自然あふれる公園を整備
  • きれいな水がなければ育たないであろうホタルを育てた
  • 地域住民のふれあいの場としての農場を運営

 

この活動の結果、石井産業の中間処理施設の周辺は、

近隣住民の誰が見ても良い環境になったのでしょう。

そのような状態で、仮にどこかで土壌汚染があったとしても、

もはや石坂産業が原因であるとは、地域住民の誰もが考えないでしょう。

 

もちろん、順風満帆のV字回復などあるはずはなく、

度重なる苦境における経営者としての、

そして職業人としての苦悩が描かれています。

 

本書第2、第3の軸が読者層を広げている

さらにこの本には、産廃業の経営者としてのサクセス・ストーリー以外にも、

  • 創業者のカリスマ社長(父)から2代目女性社長(娘)への世代交代・事業承継
  • 産業廃棄物中間処理業という男社会の中で生き抜くワーキングマザーとしての著者

という第2、第3の軸もあります。

 

この第2、第3の軸については、他業種で特に創業者の2代目として家業を継ぐ立場にある方や、

男性ばかりの職場で働く女性管理職にとっても、共感できる内容なのではないでしょうか。

そういう意味では読者層の裾野を広げているこの著作ですが、

やはり産廃処理業に携わる経営者にこそ、ぜひ真っ先にお読みいただきたいものです。

 

産廃業界におけるマーケティング3.0の模範事例

この著作には直接書かれてはいませんが、

この石坂産業の取り組みこそが、

フィリップ・コトラーのマーケティング3.0のひとつの模範事例ではないか、

私はそう思うのです。

 

マーケティング3.0では、企業の目的は、

消費者のニーズを満たす製品やサービスの一方的な供給に留まらず、

顧客とともに、世界をより良い場所にすることにあると考えます。

 

ただ製品中心(マーケティング1.0)でもなければ、

ただ消費者志向(マーケティング2.0)でもない。

地域のよりよい環境を一企業と地域住民が協力して作り上げることが、

これからの時代のマーケティングであると、

コトラーの著作を愛読している私は理解しています。

 

ぜひ、日本全国の廃棄物処理業に携わる経営者に読んでいただきたい本です。

 

参考url:三富今昔村

都心から1時間、東京ドーム3.8個分の里山で自然と触れ合う体験が可能です。

しかしここが産廃中間処理場の周辺敷地。

 

(河野)