産業廃棄物処理業の許可申請の手引きを読んでいると、必ず出てくる文言。

経理的基礎。

経理的基礎とは、会社の財政状況に関する評価だと考えてもらえれば。

 

経理的基礎を認めるかどうか、というのは、

換言れば申請する会社に産業廃棄物処理業を扱わせることが許されるかどうか、

ということ。

会社の財政状況が窮地である場合には、国はそのような業者に産業廃棄物処理業を行わせない、

という考え方をしています。

 

私たち行政書士は、会社の貸借対照表や損益計算書を読んで、

その会社が経理的基礎を備えているかどうかを都道府県等が公開している申請の手引きを参照し、

判断しています。

そうすると、経理的基礎というのは、

決算報告書の中にある書面上のもの、

と思いこんでしまったりしてしまいます。

 

しかしながら、経理的基礎の要件の大切さをしみじみと感じさせる

或る中間処理場を先日、自分の眼で見てきました。

いや、正しくは、処分場跡地。

中間処理場が倒産したのです。

未処理の産業廃棄物を残して。

 

どんな商売であっても、倒産の危険は少なからずついて回ります。

多くの場合、資金ショートが倒産の要因、引き金になります。

では、中間処理業者は、カネが回らなくなったらどういう行動をとるのか。

カネが回らなくなったら、以下の行動を取るのがおそらく「合理的」なのです。

  1. さらに産業廃棄物を受け入れる
  2. 廃棄物の処分はストップする

 

廃棄物を受け入れれば、売上は上がります。

中間処理場の場合、現金での受け入れも多いと思いますので、

キャッシュフローは一時的に改善します。

また、受け入れをストップすることで、

処理費用の支出を先延ばしすることができます。

こうやって、一時的にキャッシュフローを改善させながら、

会社の資金ショートを回避していくのです。

 

もちろん、このような方法では、会社の経営改善の根本的な改善にはなりません。

しかし、会社の資金ショート回避のためには、

上記1,2を選択せざるを得ないのです。

 

その結果、中間処理場はどうなるのか。

受け入れは継続。処分は停止。

中間処理場の敷地、建屋内部には、廃棄物で溢れかえってしまうのです。

そして、資金ショート、倒産後の中間処理場には、

大量の未処分廃棄物が取り残されてしまうのです。

 

これが通常の物販業であれば、

商品を保管していた倉庫の中に保管されている商品は、

債権者がいち早く持ち出しますので、

倉庫はあっという間に、もぬけの殻。

 

信用取引での仕入れも信用を失ってできず、

現金取引も現金を失ってできず。

何もない倉庫の中で、誰にも迷惑をかけずに倒産する、

という静かな結末になります。

 

ところが、産業廃棄物処理業であれば。

受け入れた廃棄物は、カネがないので処分できずに積み上げられたまま。

未処分廃棄物という決算書の数字に表れない負債を抱えたまま、

会社は倒産するのです。

 

では、いったい誰がこの産廃を処分するのか。

もし、私が排出事業者であれば、どうするか。

倒産した中間処理場に放置された産業廃棄物は、

何がなんでも回収してきます。

 

排出事業者は、適正処理が終了するまで、廃棄物に対する責任を負い続けます。

だれかが放置廃棄物を谷に埋めたら、それを自費で引き上げるのが排出事業者の義務なのです。

それくらい、未処分の廃棄物が生むリスクは重い。

もしも自社の廃棄物を残して中間処理場が倒産したら、回収してこないと大変なことになりかねません。

 

とはいっても、倒産した中間処理場には、排出事業者が誰だかよくわからない廃棄物が残るものです。

もしも、この廃棄物が有機物であれば、短期間で性状変化していきいます。

そうでないとしても、時とともに誰にも処理されることのない廃棄物が廃墟感を増していきます。

さらに、廃棄物を残して倒産した処分場というのは、絶好の不法投棄場所になりかねません。

こうなると、もはや倒産した中間処理業者と排出事業者だけの問題ではなく、

これは「社会問題」ということになります。

 

これが、実際に私が見てきた倒産した中間処理場の現実です。

決算書の数字を見ながら、経理的基礎を判定している限りは、

このような現実はみえてこないものです。

 

なぜ、廃棄物処理業者に経理的基礎を求められるのか?

と聞かれたならば、上記のような特殊性があるからだ、ということになります。

現在の制度では、廃棄物処理業者の財務的な能力担保を、経理的基礎で判定する、ということにしています。

しかし、上述の廃棄物中間処理施設倒産の例に見るように、

経理的基礎の要件では完全に廃棄物放置のリスクを回避することはできません。

 

たとえば、中間処理業者が、廃棄物を受け入れて売上を立てると同時に、

処分費相当額を供託(国に金を預ける)制度があればいいかもしれません。

あるいは、中間処理場や積替保管施設の品目と保管量に応じて、

予め許可時に供託金を求めるとよいのかも。

あるいは、協会に対していくらかずつ協会費を積み立てていって、

倒産時はそこから補てんするような制度。

最終処分場には積立金の制度がありますが。

以上は、私があればいいな、と思った制度ですので、現実には存在しません、付言しておきます。

 

最後に、私が前々から感じていることをひとつ。

施設に山積みされた未処理の廃棄物は、会社の決算書に登場しないケースが多いはずです。

その場合、会社の純資産額から山積み廃棄物の処分費相当額を引いたものが、正味の純資産額になるはずです。

この山積み廃棄物の量を決算期に増減することで、会社は利益調整をすることができます。

廃棄物の受け入れ時点で、本来処分費は負債と考えていかなければいけないんではないかな、と、

あの廃棄物の山を見るたびに、感じてきました。

 

(河野)