前回の記事更新から2カ月近くたってしまいました。

11月はほとんどと広島にいる時間がなく、日本全国プラス海外を移動していまして、

ゆっくり記事を書く時間を作ろうとさえ思えませんでした。

12月になって、少々ゆっくりしてきましたので、

事務所の机から久々の記事を書いてみたいと思います。

 

今回の記事のテーマは、実務上・技術上・法規制上のそれぞれの最適値と裾切りについて。

もちろん、産業廃棄物処理施設についてのことです。

 

11月、広島におらずに私は何をしていたかと申しますと、

日本全国の産業廃棄物の処理施設を自分の眼で見て回っていました。

破砕・選別・焼却・溶融・乾燥・堆肥化・脱水。

沢山の施設を見学しました。

さまざまな処理方法により、産業廃棄物は再資源化、減容されていきます。

 

当事務所には、ある日突然、全国各地から電話がかかってきます。

「〇〇県○○市に、中間処理施設(処理方法〇〇)を設置したい」

我々は、そのお電話をいただくたびに、全国各地に出向き、主に3つの聞き取りをします。

 

聞き取り① 事業の収益性について

社長や企業の担当者の方とお話ししながら、

どのような産業廃棄物をどのくらいの量、どのように処理したいのかをお聞きします。

そのときには必ず、それが事業として収支が成り立つという「からくり」まで確認しています。

産業廃棄物処理業の場合、事業の収益性確保というのは、実際のところ非常に重要な点の一つです。

 

聞き取り② 技術上の問題について

それから、今後新たに施設(たとえば破砕機とか焼却炉とか)を設置する企業の場合、

処分量や品目が未定のまま走り出しているケースも多く見られます。

我々行政書士は特に、役所との書面上のやり取りばかりに頭がいっぱいになりがちであり、

技術の問題を見逃してしまいがちです。

産業廃棄物処理は、そもそも「技術」なのです。

我々にとって、技術担当者との打ち合わせは、処理施設設置の原点になります。

 

聞き取り③ 各種法規制について

施設設置検討中の現地で土地や施設を見学に行き、

社長や技術担当者との打ち合わせの後に我々が必ず向かう先。

それが、管轄の都道府県及び市町村です。

ここで我々は、廃掃法のみならず、各種法規制の確認を行ったり、

自治体ごとにいろいろと異なる手続きの流れの確認をしています。

 

上記3種の調査を行った後に、我々は許可申請、そして許可までのタイムスケジュールを作成します。

聞き取り①、②、③を最適点で統合するというのが、「行政書士の技術」といったところでしょうか。

この最適点での統合、というのがなかなか難しい。

あるときは、①収益性を一部犠牲にしなければならない。

またあるときは、②技術上の一部を最適状態から外さないといけない。

しかしながら、③各種法規制だけは、ほぼ全くもって融通が利きません。

なので、「収益や技術は、法規制に従う」ということになります。

 

無数の法規制が複雑に絡んでくる産業廃棄物施設設置許可申請手続において、

行政書士が主導権を持って事を進めていかなければならない理由は、

「収益や技術は、法規制に従う」ことによります。

 

さて、さきほど、③法規制は融通が利かない、ということを申しましたが、

実際には法規制に融通を利かせることが可能になる場面が登場します。

といっても、法規制を捻じ曲げるとかそんな話ではなく、

収益性や技術上の最適点からそれぞれ少しずつを犠牲にすることによって、

法規制を回避することができることがあるのです。

その際のキータームが、「裾切り(すそきり)」なのです。

 

裾切りの一番オーソドックスな例をひとつ挙げてみます。

廃掃法第15条と令7条。

廃掃法15条では、政令で指定する産業廃棄物処理施設の設置には、都道府県知事の許可が必要だと書いています。

 

いわゆる「15条施設」とか「15条許可」と呼んでいるものです。

廃掃法15条では、「政令で定める施設」には許可が要るとしか言っていません。

ということは、政令で定める施設以外の施設には、施設設置許可は不要ということになります。

 

政令で定める施設に該当するかどうか。

ここに、裾切りが関わってきます。

令7条の規定のひとつを例示してみます。

「汚泥の脱水施設 処理能力が10㎥/日を超えるもの」

汚泥の脱水施設のうち、処理能力が10㎥を超えるもののみが、

施設設置許可の対象となるわけです。

 

ということは、もしも汚泥脱水施設の処理能力が9㎥であれば、

施設設置許可なしで産業廃棄物処分業を営むことができるのです。

汚泥の脱水施設の場合、10㎥で裾切りがされており、

小規模な汚泥脱水施設であれば、施設設置許可は裾を切られて必要ない、

ということになります。

 

さて、ある脱水施設について、処理能力12㎥での計画中であるとします。

なぜ、「処理能力12㎥の」施設なのか。

これは、処理能力12㎥の施設が、

②技術的に最適値である

の条件を満たし、なおかつ

①収益性を確保できる

という条件も満たしているということでしょう。

条件を2つ満たしています。

 

ところが、このまま処分業の許可を取得しようと思えば、

③法規制上の制限

という3つ目の条件がかかってきます。

処理能力12㎥は、汚泥の脱水施設の裾切りよりも上ですので、

施設設置許可が必要になってくるのです。

 

なお、ここで施設設置許可が必要だと簡潔に説明していますが、

施設設置許可に伴いさらにいくつかの手続きが求められ、

許可が下りるまでの期間や費用も大きくなるのです。

 

そこで、裾切りを利用して、処理能力を9㎥で再設計するという手段が考えられます。

12㎥の施設から25%処理能力を落とし、小型の施設に変更する。

この場合、まず

②技術的にややロスのある施設

になっている可能性があります。

たとえば、12㎥の施設も9㎥の施設も建設費も維持費もほとんど変わらないかもしれません。

 

また、

①収益性も犠牲

になっている可能性もあります。

12㎥の施設も9㎥の施設も時間当たりのランニングコストがほぼ同じであり、

結果、収益性が落ちる

ということになりえます。

 

これらのデメリットと、③法規制の回避のメリットを天秤にかけて比較するのは、

事業者の価値判断です。

よく事業を見直してみたところ、実際の稼働は6㎥以下で行うので、

最大処理能力が12㎥か9㎥かは全く問題にならなかった、というケースもあるわけです。

もちろん、収益性と技術が対立する場面もあり得るでしょう。

 

我々行政書士は、比較のための天秤を用意いたします。

実務上・技術上・法規制上の最適値を3つの視点から求めていくプロセスが、

私にとって、産業廃棄物施設設置許可申請なのです。

 

(河野)