廃棄物処理を語るうえで、
現実問題として欠かせないのが「不用品回収業者」(以下「回収業者」)の存在です。
現実問題として、という言葉を付け加えて限定したのは、
法は回収業者の存在を予定していないからです。
回収業者は、ときに公権力からの敵視を受けながら、
ときに市場の需要に支えられながら、合法と違法のグラデーションのちょうど中間を逞しく
生き延びてきた事業だと言ってもよいでしょう。


回収業者を悪しきものと捉える人、必要悪と捉える人、
社会に必要な事業だと捉える人、様々な見方があることは一旦棚上げして、
価値中立的に回収業者について書いてみたいと思います。
価値判断ありきの先入観から入ってしまうと、
不用品回収業や廃棄物処理問題を正しく分析することができなくなると思います。


まず、このブログの読者の中に回収業者の存在を
知らない方は皆無でしょうが、回収業者とは何かについて。
一般廃棄物収集運搬業の許可を持たずに、
車載スピーカー、チラシ、インターネット広告、空地への野積み等の手法により家庭から
排出される家電、大型ごみその他の一般廃棄物または有価物を収集する業者ということになります。


この回収業者が社会問題となり、
環境省や自治体が随分前から警告をし続けていますが、
回収業は今のところなくなる気配がありません。
完全に合法でもなければ、完全に違法でもないというグレーゾーンの中で、
回収業者は事業を続けています。


回収業者の何が問題なのか?
これに対する回答は、主にふたつの方向性から提起されています。

①廃掃法違反、家電リサイクル法違反等の法令違反

②悪質事業者との消費者トラブル

どちらも行政が注意喚起を促していますが、
②に関しては、回収業者は必ずボッタクリなのかと言われれば、そんなことはありません。
そもそも、回収業者がなぜグレーゾーンにも関わらずに生き延びてこれたかといえば、
むしろ処理費が許可業者よりも安かったり、逆に有償で買い取ってくれたりするわけでして、
もしも回収業者がボッタクリ集団だとしたら、間違いなく市場で生き残ってこれるはずがないわけです。
実態の大部分は、回収業者は無許可業者よりも処分費 ※1 が安い、
だからこそ上の①に挙げた不適正処理の問題が出てくるわけです。
そのうえで、悪質業者は一定数存在するわけで、
それを環境省や自治体が注意喚起を促しているわけです。

※1 あくまでも事実上の処分費。以下「処分費」。
許可業者以外は処分費を受領して廃棄物を運搬することはできません。
また仮に有価物であれば、運送業の許可の必要性が問われます。


「回収業者→悪質業者→消費者トラブル→注意喚起」という図式に関しては、
少し短絡的な推定ではないかと私は感じています。
ただし、回収業者に一定数の悪質業者がおり、
それが消費者トラブルに結びついているという例も一定数はありますが、
そうなりやすい理由に関して書いてみます。


そもそも、回収業者に許認可が必要であるのかどうかという問題があります。
冒頭の回収業者の私の定義の中に
「一般廃棄物収集運搬業の許可を持たずに一般廃棄物または有価物を収集する」と言いました。
一般廃棄物を一般廃棄物処理業許可を持たずに収集した場合、これは無許可営業で犯罪です。
ところが、業者側はこれを有価物だというわけです。


有価物の収集運搬に関しては、
古物商等の警察の許可が問題になる可能性はありますが、
廃掃法上の許可は必要ありません。
一般家庭から捨てる人にとってはゴミという認識ですが、
回収する業者としては有価物としての認識。
この廃掃法の規制範囲の限界付近では、
業者としてはどのような立ち位置で事業を行っていくのかの選択を迫られます。


実際のところ、
(ⅰ)産業廃棄物収集運搬業の許可と古物商の許可を取得するのか、
(ⅱ)完全無許可で事業を行っていくのかを判断しているというのが実情でしょう。
古物商の話はここではしませんが、
産業廃棄物収集運搬業の許可で一般廃棄物を運ぶことができるかどうかというと、
答えは一部の特殊な制度(家電リサイクル法に定める相互乗入)を除いて、認められていません。
つまり、(ⅰ) の産業廃棄物収集運搬業の許可を取得している回収業者は、
その許可では一般廃棄物を運べないことを知りながら、
有価物である不用品を回収しているわけです。


ところが、この産業廃棄物収集運搬業の許可を取得することは、
廃掃法の規制の限界領域で業務を行っている回収業者には、諸刃の剣なのです。
(ⅱ) の完全無許可業者は、廃掃法をもとに規制監督を及ぼす行政にとって、
どこの誰だかよく分からない業者なのです。
ところが、産業廃棄物収集運搬業の許可を取得すれば、
その申請内容からどこの業者の誰がどの車を使って事業を行っているのかが全て明らかになります。
廃掃法の限界領域で事業を行う事業者が、
廃掃法絡みでいわば「悪いことができない」状態を自ら作り上げるのが、
産業廃棄物収集運搬業の許可を取得する行為だと思います。


「悪いことができない」状態を作ることを避ける業者は、
(ⅱ) の完全無許可で不用品を回収することになるでしょう。
彼らの言い分はもっともで、そもそも産業廃棄物収集運搬業の許可を取得したところで、
大手を振って一般廃棄物を運べるわけではなく、
これまでと同様に不用品を有価物として収集運搬しなければならず、
一方許可申請をすることで廃棄物指導課等からの監督の対象になるわけで、
デメリットこそあれ何もメリットがないというわけです。
②の完全無許可営業の回収業者にとっては、
自分達が誰であるのかを行政にも消費者にも知られたくない、
というのが本音ではないでしょうか?


「回収業者→悪質業者→消費者トラブル→注意喚起」 という
行政側の注意喚起が特に妥当するのが、この完全無許可で業務を行っている業者ではないかと思います。
業者名と産廃の許可番号をトラックの側面に貼って、
「不用品を無料回収します」と謳いながら、トラックに積み込んだ後に高額請求をする業者なんて、
そんなにはいないと私は思いますが。
もし、そんなことが実際にあったら、
車両に貼り付けている許可番号(固有番号)を携帯で写真撮影でもすれば、
悪徳業者は大人しくなるとおもいます。普通は許認可ってそういうものなんです。
もっとも、そのことに無理解な業者やその従業員は一定数いるとは思いますが。


回収業者の何が問題なのか、そのうちの一方
②悪質事業者との消費者トラブル に関しては、上記のような事情が原因となっていると思われます。
産業廃棄物収集運搬業の許可に関しては、
それが本来とは違う目的で機能しているという面が実際には存在しています。
なお、暴力団関係者にも、廃棄物処理業の許可は下りませんので、
それを排除する効果も発揮しているともいえるわけです。


それでは、回収業者は一般廃棄物収集運搬業の許可を取得して事業を営めばいいのではないか。
それはその通りなのですが、許可がなかなか下りません。
今回は詳しくは書きませんが、問題提起のみ。
一般廃棄物収集運搬業の許可の法的性質について、
私はずっと考え続けているのですが、難解でよく分かりません。
廃棄物処理法7条5項には、
一般廃棄物処理業の許可のための条件が列挙されています。
同じく14条5項には、産業廃棄物処理業の許可の条件が列挙されています。
一般廃棄物処理業の方が、
以下の2点において許可に求める条件が厳しくなっています。

1 当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること

2 その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること

単純に条件が増えたわけではなく、
市町村により広い裁量が与えられたというレベルでもなく、
この条項は一般廃棄物処理業の許可の法的性質を根本から変質させたものではないかと私には思えるわけです。


そういった法的な諸事情で、回収業者は不用品を廃棄物としてではなく、
有価物として収集運搬しているというのが現状です。
家庭の不用品を手軽に処理してくれる非常に便利な存在であることは、
否定しがたいともいえます。


ところで、私は一般廃棄物収集運搬業の許可業者と、
回収業者の2つの収集現場を見たことがあります。
食器類を運搬するとき、
許可業者は荷台に皿を投げるように入れてるわけです。
一方、回収業者は皿をまるで引っ越しでもするのかのように、
緩衝材を当てて丁寧に積み込むわけです。


なぜ、このような違いが生じるのか、
それはこの後の行き先が違うからです。
許可業者の収集した食器類は、廃棄物として埋立されます。
どうせ埋め立てるものを丁寧に運搬する必要はないわけです。
一方の回収業者の集めた食器は、コンテナに詰められて海外に輸出されます。
日本製の中古の食器は海外では人気があるとのことで、
地球規模のリサイクルがここでは行われているわけです。


上記のように、回収業者の良い点もあるのですが、当然問題点もあります。
たとえば、国道沿いの空き地にゴミらしきものが山積みにされている光景は誰しも見たことがあるでしょう。
不用品から有価物だけを抜き取り金にして、
余った廃棄物は処分費がかかるので、とりあえず放置。
それがあの山だったりするわけです。
見た目が悪いだけでなく、雨ざらしになっていると土壌汚染のリスクもあります。
許可業者の中間処理場でさえ、受け入れだけして売上にして、
金のかかる処分は後回しにして、保管量をオーバーなどということは多くあります。
回収業者が無許可で堆積したゴミらしきものの処理を無許可の
回収業者の善意に期待することは私には不可能だと思います。


さらにもう一点、回収業者が関係する国境を越えた環境汚染について触れておきます。
「市場で取引される、つまり有価物だ」と短絡的に解釈することはできません。
回収業者の論理は、収集運搬している物は廃棄物ではなく有価物だ、ということでした。
確かに、販路がある以上は有価物に見えるでしょう。
ところが、その有価性は最終的に、不法投棄等によって担保された有価性である可能性があるのです。


たとえば、あるテレビを海外に輸出しました。
有価で売却できたとします。
ところが、売却先の国ではテレビの部品取りを行ったうえで、
最終的に残ったテレビの残骸は野焼きをしているかもしれない、ということなのです。
もしも、国内そして輸出の有価性が、
発展途上国の野焼きの上に成り立っているものであるとすれば、
本当にそれは有価物と言ってもよいものでしょうか?
(総合判断説とかは抜きに、ご自身の直観で考えていただきたい問題です)


もちろん、海外で最終的に適正処理されているかもしれません。
しかし、それは分かりません。
だから産業廃棄物の世界では、
廃棄物が最後にどうなったのかを追えるようにマニフェスト制度があるわけです。
廃掃法の基本理念の中には、廃棄物に対しての責任があるわけです。
誰かが責任を負うから、資源は循環するわけで、
そのコストも誰かが負担しなければなりません。


以上、回収業者について、
特定の価値観に偏りすぎることなく、醒めた目で記事を書いてみました。
「回収業者は悪質ボッタクリ」みたいな、
新宿歌舞伎町のキャッチ対策みたいな話とはちょっと違うんではないか、
というのが私の持論です。

この記事では回収業者は社会悪か、必要悪か、
必要なのかという結論は出しておりませんし、
そんな簡単に割り切れる問題でもありません。


(河野)