産業廃棄物の処分業を営むには、数カ月から数年単位の期間を要します。
数カ月で許可が出るケースというのは、施設設置許可の不要なケース。
施設設置許可まで必要なケースとなりますと、数カ月ではまず無理で、
年単位の期間を要するということになります。
この年単位の期間というのが、新規事業者にとりまして、
大変な参入障壁となって立ちはだかるわけです。
何しろ、数年後にしか稼働できない施設を作るわけですから、
それまでの期間は全く売上が立ちません。
建設工事に時間がかかるなどであれば、おおよその施工期間は事前に予測できますが、
許可を受けるまでにかかる時間というのは、事前に予測することが非常に困難になります。
産業廃棄物処理施設設置許可にかかる規制や条件は非常に複雑で、
事前にその条件を正確に読み取る、というのは、困難を極めます。
当事務所でも、処分施設の設置許可が絡む事例であれば、
事前調査は必ず行いますが、その調査だけでもかなりの時間を費やしています。
関係する法令の調査だけでも、毎回、苦労しています。
年間に何十件も調査している私たちでも時間がかかることなので、
事業者が調査をしようと思えば、さらに時間を要することでしょう。
また、調査の結果、予測される期間というのは、
幅を持たせたものになります。
「1年から2年、場合によってはそれ以上」
という、どう解釈しても一応正解になりそうな期間しか予測ができないということも多々あります。
期間には様々な条件が関係しています。
例えば、
周辺住民が反対の有無、
都市計画審議会の開催日、
生活環境影響調査の実施の方法などなど。
不確定要素、
つまり手続きを進めながらでしか確定できない要素に依拠して期間予測をするわけで、
不確定な予測の難しさがどこまでも、必ず付きまとうわけです。
こういった期間予測の難しさが、さらに事業者の参入障壁となっています。
いつ売上になるか読めない事業に出資なんてできない、ということです。
ところが、この参入障壁の高さは、経営という視点でみたときに、
実は自社に有利な経営資源にもなるのではないか、という見方も可能なのです。
つまり、参入障壁を逆手に取ってしまえば、他社を出し抜いて、
市場シェアを確保できることが可能になるということ。
たとえば、産業廃棄物中間処理業を稼働させるまでに、2年半の期間を要する、とします。
自社にとっては、非常に大きな参入障壁でありますが、
それは基本的に他社にとっても同じことです。
A社がすぐ近所で汚泥の脱水施設を設置して、利益を出しているようだ。
それに気づいたB社が、同様の施設を設置して対抗しようとしても、
A社と同じようにB社が許可を取得して事業を開始するまでに、
そこからさらに2年半かかる、ということになります。
この2年半の間、A社は少なくとも新規参入しようとしているB社に対しては、
利益を独占できる、ということになります。
A社は、B社の新規参入に対して、対策を打つことも可能です。
A社がB社と商圏が被るであろう地域で先に顧客を独占してしまえば、
B社にとっては、新規参入後に市場シェアを奪うことは難しいでしょう。
また、A社が導入した機械の処理能力が大きければ、
すでにその商圏のニーズを十分に満たしてしまう、ということにもなりかねない。
そうなると、B社にとって、そもそも新規参入するメリットが何もなくなってしまいます。
法的な手続きを踏んで、先に稼働さえさせてしまえば、
中間処理業には、潜在的な競合である他社に対して圧倒的強みがある、
という見方が可能になるのです。
経営学、経営戦略などで使われる用語に、先行者利益や後行者利益がありますが、
行政手続に要する期間が参入障壁である以上、
ここでは先行者利益が働く、ということになるわけです。
アメリカのある企業(ホームセンター)は、郊外の比較的小さな町に、
大型店舗を他社に先駆けて開業していくことで、他社の参入障壁を先に作っていったといいます。
模倣企業がその町に対抗するホームセンターを作ろうとしても、
すでにこの街には十分な規模のホームセンターがあるために、参入しても売り上げを分けあるだけで、
共倒れになるだけだと見えている。
それが、潜在的な新規参入に対して、参入障壁として機能することになります。
ホームセンターのこの話は、私が数年前におそらく経営戦略の本で読んだ内容です。
どの本だったか思い出せず、書棚を探してみましたが、見つかりませんでしたが、
この記述を読んだときに、「まさしく中間処理業だな」と感じたものでした。
記憶を辿って書いてますので、正確さには欠けるかもしれませんが、
廃棄物処理業も他の産業と同様に、経営学の理論に従うべきだと思っています。
(河野)