廃棄物処理技術の中でも、近年めざましく発展してきたのが有機物の処理だと思います。

ほんの何十年か前には、焼却くらいしかなかった処理方法が、新技術によって新たな展開を迎えています。

その背景には、ダイオキシン問題等から派生する様々な要因で、焼却炉を新規に設置することが非常に困難になっていることが挙げられるでしょう。

焼却炉に関しては、各自治体の一般廃棄物を処理する焼却炉も低公害の大型化が進んでいます。

産業廃棄物に関しては、焼却炉の大型化ではなく、焼却炉代替技術という新たな方式が提案されています。

自治体主導でも一般廃棄物の焼却炉設置は非常に大変な時代になっています。

ましてや民間の企業が廃掃法15条の焼却施設を新規で設置するのは、それ以上にはるかに過酷と言ってもいいでしょう。

しかし、有機物はかなりの量、産業廃棄物として排出され続けています。

そこで、有機物処理の焼却代替新技術として登場してきたのが、メタン発酵施設です。

メタン発酵施設に関しては、当社は日本全国各地で廃棄物処理施設設置コンサルタント及び行政書士として相当数携わってきた経験があります。

今回は、メタン発酵施設を廃棄物の処理施設として、産業廃棄物の中間処理業の許可を取得する上で問題になる数々の論点のうちの代表的なものについて、簡潔に書いてみたいと思います。

廃掃法の上で最大の論点は、「メタン発酵施設は廃掃法15条の施設に該当するかどうか?」でしょう。

15条施設に関しては、このブログで何度も記述してきましたので、過去記事を参照していただければと思います。

廃掃法施行令7条には、15条施設が限定列挙されています。

ここに掲げられているもののみが、15条施設(廃棄物処理施設設置許可が必要な施設)であり、ここに掲げられてなければ15条施設ではないのです。

そこで廃掃法施行令7条を上から順に眺めてみますと、「メタン発酵施設」という文言は見当たりません。

有機物(品目で言えば、動植物生残さ、動物の死体、動物の糞尿)の処理に関わりそうなものでは、「産業廃棄物の焼却施設」というのが列挙されています。

しかし、メタン発酵は嫌気性発酵処理であって、どう考えても「焼却」ではありません。

メタン発酵は、発酵処理または堆肥化処理ですが、発酵も堆肥化も、廃掃法施行令7条には列挙されていません。

私は数多くの廃掃法の許可に関する事前相談のために、許可権者である自治体に出向いたことがありますが、この段階では「メタン発酵施設は廃掃法15条の許可が必要な施設ではない可能性が高く、14条の業許可のみが必要なのではないか」と言われたケースが多いです。

ところが、事前協議を進めていく中で必ず、この廃掃法15条問題が浮上してくるのです。

その問題は、事前協議を進める中で、施設図面が明らかになった際に顕れてきます。

「この施設は、廃掃法15条の施設なのではないか?」

その対象とは、メタン発酵残渣物の固液分離工程にあります。

メタン発酵は、有機物を焼却することなく処理でき、なおかつバイオガスによる発電やボイラー燃料としての利用もできますので、優れた有機物のリサイクル方式です。

ただし、燃え殻に代わる大量のメタン発酵残渣が出てくるのです。

メタン発酵残渣は泥状のため、固液分離して、固体は堆肥原料、液体は消化液として利用または処理されてリサイクルを完結することになります。

この固液分離には、物理的な方法が使われます。

廃掃法施行令7条をもう一度見ると、「汚泥の脱水施設」という文言があるわけです。

メタン発酵残渣を固液分離することは、「汚泥の脱水」に該当すると言えるかどうか。

ここが重要な問題になってくるわけです。

先程、有機物として挙げた品目は、動植物生残さ、動物の死体、動物の糞尿であり、汚泥はそもそも投入していません。

それでも処理の過程で泥状になり、さらにそれを脱水すれば、汚泥の脱水施設に該当すると言えるのかどうか。

正直、私もよく分かりません。

しかし、この問題を棚上げにしたままでメタン発酵施設の許可申請手続を進めていくことは、非常に危険でしょう。

下手すると、全てが覆って事前協議最初からやり直しになりますから。

この問題に関しては、水質汚濁防止法との関わりもあり、環境省通知も参考にして事前協議を進める必要があります。

メタン発酵施設は、日本の場合は普及に大きな問題があると感じています。

まず、一般廃棄物処理施設の場合。

焼却炉の代替施設とするには、収集運搬コストがかかり過ぎる点。

メタン発酵ではプラスチック類は処理できませんので、事前にきちんと分別しておかなければいけないわけです。

収集運搬以前の段階でこの分別を徹底させるには、家庭ごみの分別が前提ですが、実際問題困難でしょう。

そこで、排出時の正常が安定している産廃処理で積極的にメタン発酵施設の導入が進められてきたわけです。

しかし、ここでも問題があるわけです。

大量のメタン発酵残渣。

メタン発酵残渣は、固液分離によって、堆肥原料と消化液になります。

どちらも農業利用可能。

それではこれでリサイクルが完結したかというと、そう単純な話ではありません。

この堆肥と消化液が有価で取引されない限り、堆肥も消化液も廃棄物を立派に卒業できたとは言えないのです。

メタン発酵残渣から産まれる堆肥と消化液は、どちらも農業にとって非常に有用なものです。

実際に利用している農家から話を聞いたこともあります。

しかしながら、廃棄物処理から産まれる堆肥・消化液と、農業という市場で必要とされる堆肥・消化液の需給バランスが保てていない限り、メタン発酵施設自体が廃棄物処理施設として収益性の点で、成立しなくなる可能性も孕んでいるわけです。

私は2年前にドイツに行きましたが、市街地から少し離れると延々と農地が広がっているわけです。

日本とは全く環境が違います。

日本でメタン発酵を廃棄物リサイクル業として進めようとすると、農業との連携が必要不可欠なのではないでしょうか。

そこがうまくいけば、産廃処理のメタン発酵は、非常に魅力があるビジネスモデルなのではないかと感じています。

(河野)