私は行政書士として、主に許認可に関わる申請書作成その他の事務を、

企業から外注していただく、ということを生業にしています。

この外注、アウトソーシングに対する私の考え方について、記事を書いてみようと思います。

 

私は、たまたま産業廃棄物処理業に関する手続きを受注していますが、

この考え方は、産廃業者に限らず当てはまるものと私は考えています。

 

どのような仕事であれ、組織を作って事業活動をしていると、

色々な場面で、どこまでを内製して、どこからアウトソーシングすべきであるのかについて、

考えることがあると思います。

その際に、多くの企業ではコスト比較による決断がされています。

 

この業務・事務・あるいは雑務につき、

従業員にさせることにより、いくらの人件費がかかるのか。

それと比較して、外注費はいくらなのか。

 

その結論を公式化すれば、以下のような単純な式になるかと思います。

人件費<外注費→内製

外注費<人件費→外注

 

たとえば、産業廃棄物収集運搬業の許可申請書を作成するために、

従業員を合計で3日間拘束したと仮定します。

すると、従業員に支払う人件費(あくまで仮定の数字)は、

  • 給与10000円×3日間=30000円
  • 法定福利費2000円×3日間=6000円
  • 合計36000円

ということになります。

 

一方、外注費はいくらになるのか。

たとえば、2社の行政書士事務所に見積もりをしまして、

A事務所=32400円

B事務所=54000円

だったとしましょう。

もちろん、この数字もあくまでも話を分かりやすくするための仮定のものです。

 

ここで、単純になされているコスト比較が、

  • A事務所は従業員の給料よりも安い→アウトソーシングすべき
  • B事務所は従業員の給料よりも高い→従業員により事務を内製すべき

という話になりそうです。

 

もしもA事務所とB事務所の提供しているサービスの品質が全く同じであると仮定すれば、

高いB事務所よりも安いA事務所に外注すべきであるという結論には異論はございません。

それが資本主義経済というものです。

ところが、このコスト比較には、ひとつ大きな落とし穴が潜んでいるのです。

 

もしも、A事務所の見積もりがなくて、一番安い見積もりを出した事務所がB事務所であったとします。

B事務所の外注費は54000円。

一方の内製による人件費は36000円。

冒頭にあげた式により判定すると、

人件費<外注費→内製

に該当することになり、従業員により内製させるという経営判断になるかと思います。

 

この判断に関して、私は非常に違和感を持っています。

おそらく、この経営判断は間違っている。

 

経営者とお話しをさせていただいた際にも、

人件費<外注費→

の事例で、内製を選ぶ方と、外注を選ぶ方がいらっしゃいます。

そして、外注を選ぶ経営者の方が高い利益率を達成するであろうというのが、

私の考え方です。

 

経営者が比較すべきは、

人件費と外注費の単純比較であってはなりません。

なぜなら、この判断を無限に繰り返していくと、

最終的に会社の利益率は0%に収束していくからです。

 

従業員の労働が余剰の価値を生み出すことで、はじめて企業に利益が残るのです。

従業員が労働できる時間は、有限です。

たとえば、残業込みで月に200時間労働するとしましょう。

 

この200時間の間に、いかに余剰の利潤を生むか。

ところが、200時間のうちの20時間を、外注費と比較しただけの事務に時間を奪われれば、

その分だけ(この事例では10%)、利潤確保の可能性が落ちてしまうということになります。

 

外注費と比較しただけで内製を選択し続ければ、

全く利益を生まない仕事に貴重な従業員の労働時間を奪われ続けるということになり、

企業が利潤を残す可能性がどんどん減ってしまいます。

 

では、どのようにコスト比較すべきだったのか。

私は、以下のように提案しています。

 

従業員の人件費は、以下のように計算します。

  • 給与10000円×3日間=30000円
  • 法定福利費2000円×3日間=6000円
  • 合計36000円
  • 会社の売上に対する人件費率(たとえば30%)を計上し、合計を割る

上記の計算により算定された数字と、外注費を比較して、それでも内製が安いのであれば内製。

人件費率30%であれば、以下の金額になります。

36000÷30%=120000

 

人件費率が30%ということは、

従業員は労働により、自分の給料の3.3倍の価値を生み出しているということになります。

人件費と外注費の単純比較ではなく、その労働がいくらの価値を生み出せるかどうか、の算定が必要です。

「会社の売上に対する人件費率(たとえば30%)を計上し、合計を割る」

という上記の計算は、従業員が生み出すべき価値を計算しているということです。

本来生み出すべき価値よりも低い仕事を従業員にさせている(内製化)ということは、

長期的には会社の利益率を下げ続ける行為であるということになります。

 

この計算式では、売上に対する人件費の割合としていますが、

全社で計算すべきか、部門で計算すべきか、役職で計算すべきかなど、

実際の算定には難しさも伴うでしょう。

 

しかし、私がこれまでに見てきた廃棄物処理業者の許認可手続の担当者の多くは、

多くの場合、会社にとって重要な地位にある人でした。

換言すれば、労働によって生み出すべき価値が高い人ということになります。

 

許認可に限った話では全くありませんが、

ぜひとも外注化を進めることで、より利益率の高い事業を目指していただきたいと、

どの企業に対しても思っています。

なお、本記事はコスト比較という視点だけで書いていますが、

外注化か内製化かの判断には、コスト比較以外の要素が関係することも当然あることですので、

念のために付言しておきます。

 

(河野)