個人事業主として産業廃棄物収集運搬業の許可をお持ちの業者が、
業績も上がってきて、そろそろ法人成を考える時期だ、いうとき。
当事務所では、積極的に売り出しているわけではありませんが、
株式会社設立手続きを代行していますので、
そんな法人成を考え中の方より、相談を受けることもしばしば。
まず、この問題の前提として、産業廃棄物収集運搬業と書いていますが、
産業廃棄物処分業の許可は、最初から個人ではなく法人で取得することをお勧めいたします。
処分業の許可というのは、取りたいと思ってすぐに取れるようなものではなく、
1年、2年という年単位の期間を要するものです。
個人で許可を取得すると、例えば家業としての処分業を継ぐ息子に事業を引き継ぐにしても、
許可を相続させることはできません。
息子の名前で改めて許可を取得しなおすことになります。
法人成や家業の引き継ぎに当たって、1年からの無許可期間ができてしまうのです。
その間、処分業は営めないわけですから、これは死活問題になってしまいます。
ほかにも、改めて法人名義や息子名義での許可取得には、
処分業許可だけではなく、施設設置許可、建築基準法51条の許可、
近隣住民への説明会、そして生活環境影響調査と、
手間と費用のかかる手続きがすべてやり直しになってしまうことになると思います。
処分業の許可を取得するにあたっては、事前に法人成をすることで、
許可取り直しや息子への事業承継の問題に対応できます。
息子に株式を相続(または生前贈与)させれば、
事業に切れ目なく承継させることができるのです。
もうひとつ、法人で処分業の許可を取得するメリットがあります。
それは、事業をやめたいとき。
個人事業としの処分業をやめるには、
破砕機やら選別機やらを個別に売却していくしかありません。
ところが、法人としての処分業であれば、
会社ごと売却すれば、施設一式に処分業の許可付きという条件で売却することができるのです。
処分業の許可は、それ自体が財産的価値を有するものです。
許可を取得するに当たって、土地や工場や機械を準備しなければなりません。
これらの準備がおおむね整ってからの事前協議となり、
先ほど申し上げたように、そこから年単位の期間を要して、
やっと処分業の許可が下ります。
その年単位の期間の間、これらの施設は、許可がないので稼働させることができません。
許可を取得するまでの期間、これらの施設はただランニングコストがかかるだけで、
一切の収益を処分業からは生んでくれないのです。
ただ、許可を取得するために存在しているだけの施設、という位置づけ。
処分業の許可を受けた会社の売却の場合、
決算書の数字に加え、この許可を取得するための費用を金額算定して、
決算書に現れない価値として加算した上で、
企業の買収額を決定しています。
処分業許可の価値を知らないコンサルタントが見積もると、
そこを無視して買収額を出してしまうことがあるらしいので、
会社を売る方としては注意が必要でしょう。
処分業が本業ではなく、別に建設業なり運送業で本業がある会社の場合、
処分業のみを別会社にしておくと、将来処分業のみを売却することが可能になります。
事業開始前からあらかじめ撤退戦略を考えるというのもなかなか難しいところでしょうが、
撤退という選択肢をあらかじめ設定しておいて新事業に進出することで、
企業のリスクを管理できるので、重要なことだと私は思っています。
今回の記事は、収集運搬業の法人成についても書くつもりで、
処分業について書いていたら、文字数が多くなってしまいました。
今回は処分業は法人化してから取得すべきだ、ということを結論として、
次回、収集運搬業と法人成について書いてみます。
(河野)