第2回 行政書士開業者の特殊性と「行政書士食えない説」

第2回 行政書士開業者の特殊性と「行政書士食えない説」

行政書士の河野です。

この連載記事は、2003年より行政書士事務所を営んできた
私の行政書士事務所経営論をまとめたものです。

本来の読者層である廃棄物処理業者に向けて
書いているものではありませんので、
WEBサイトの片隅にこっそり載せています。
やる気のある若手行政書士を対象読者にしています。

前回の記事で、行政書士業を事業として成り立たせるのは
それなりに大変だと書きました。

また、行政書士は、各方面から
悲観的なことを言われ続けているとも書きました。
それは端的に言えば「行政書士は食えない説」です。
私自身も、行政書士事務所を開業したばかりの頃は、
周りから色々と言われたものです。

「行政書士は仕事がないから食えないよ」
「税理士か司法書士の資格を取りなよ」

当時はいかにも業界を知らなさそうな方からの
有難いアドバイスを多数いただいたのですが、
最近は誰も私にアドバイスはしてくれなくなりました。

しかし、新規の行政書士開業者の多くが
「それじゃ食えないよ」と言われる理由は、今の私には分かります。
「行政書士食えない説」を培養した要因のひとつについて、
ここで書いてみます。

行政書士開業者の中で、
公務員退職者は事情が異なるでしょうが、
国家試験合格者に関しては、
この「国家試験」というところに
悲観的に語られてしまうひとつの要因があると感じています。

行政書士になる人は、
まず国家試験の受験勉強を経て、
合格後に何らかの方法(修行、開業講座、或いはぶっつけ本番)
で開業をすることになるかと思います。

最初の目標は行政書士業を営むことだったはずなのですが、
その過程には必ず国家試験合格が入る。

すると多くの人にとっては、
一旦は国家試験合格が目標になってしまう。

国家試験合格は行政書士業のための手段であったはずなのに、
行政書士試験がそこそこ難関資格なため、
2年も3年も勉強してしまう。

いつの間にかすっかりと国家試験合格だけが
最終目標に置き換わってしまうという現象が起きるわけです。

行政書士試験に合格した人が
いざ行政書士事務所を開業しようとするときに、
「商売に対しての何のビジョンもない」
という状態を非常に多く見てきました。

「国家試験の勉強のときに親族法相続法が楽しかったから、
開業したら離婚と相続を仕事にしよう」

なんてことを言い出す人が出てくるわけです。

「そりゃー食えないよ」と近所のおじさんに言われても仕方がない。

例えば、自分で独立して
飲食店を新しく出そうという方がいれば、質問してみてください。

「何席の店で何回転して、客単価はいくらですか?」

「原価率何%ですか?」

「人件費は?」

「場所と営業時間は?」

「どんな料理をどんなコンセプトで出しますか?」

これから飲食店を出そうとする人は、これらにほぼ即答します。

ところが、行政書士を開業しようとする人には、

「何の仕事を月何件やって単価はいくらですか」

と質問しても、皆さんそんなこと考えたこともなく、
頭の中が漠然としてるわけです。

飲食店の経営者は、飲食店を経営するのが目的であったわけで、
調理師試験合格が目的に置き換わった経験は一度もありません。

勤務調理師時代に海老の殻向きが楽しかったから、
エビフライの店を出そうなんて人はいません。

「そんな店があったら、すぐ潰れるだろ」と思う直観と、
「行政書士は食えない説」の本質は同じです。

・国家試験が目的化して、商売に対するビジョンを失ってしまっている

・受験が長期化すればなおさらその傾向は強まる

これが、行政書士が悲観的な扱いにされている要因です。

ビジョンなき開業。
その結果、どうなるのか。
開業したばかりの行政書士から、以下のような相談を非常に多く受けます。

質問① 「専門業務は絞った方がよいのでしょうか?」

この質問者には、開業にあたっての
商売としてのビジョンが全くなかったということです。

質問者は、私が行政書士として廃棄物処理に
特化していることをすでに知っていて、私に質問しているわけです。

回答は決まってますし、
それは質問者も最初から分かっていることだと思いますが、
それでも質問してしまうわけです。

私の回答を受けて、その次の質問はこれです。

質問② 「何の業務を専門にしていくべきでしょうか?」

見事なまでにビジョンのない開業です。
こんなことを質問する商売人は、職業多しと言えども
行政書士しかいないのではないか。

商売人から商売のビジョンを奪う国家試験というのは、
実に恐ろしい制度です。
行政書士開業者は極めて特殊です。

以上、「ビジョンのない開業」という
新人行政書士にとっては耳の痛い話を書いてきましたが、
ここで正直に白状しましょう。

私自身も、何のビジョンもなく行政書士を開業してしまいました。

これは、16年前(2003年)の自分に向けたメッセージでもあります。

(河野)

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