第3回 他士業との比較における行政書士業の特殊性と専門性欠如

第3回 他士業との比較における行政書士業の特殊性と専門性欠如

前回の記事では、行政書士開業者と飲食店の開業者を比較して、

いかに行政書士開業者が特殊であるかについて書きました。

行政書士開業者には、商売人としてのビジョンを持たない人が極端に多い。

これは、あらゆる業態で起業する人の中でも、

行政書士開業者に特に当てはまる傾向なのではないかということで

「行政書士開業者の特殊性」と表現しました。

この行政書士開業者の特殊性を産む大きな要因として、

国家試験制度があるということも書きました。

ところで、行政書士以外にも日本では他にも

「○○士」と言われる職業が多々あります。

これらを一括りにして「士業」或いは「隣接法律職」

などと格好よく類型化することもあります。

これら○○士も、国家試験を経由して○○士になるわけです。

しかも一般的に、行政書士試験の受験よりも難関で、

受験期間が長期化する傾向があると思われます。

となると、行政書士開業者以外にも同じことが言えるわけで、

これは行政書士開業者の特殊性ではなく、

○○士開業者の特殊性だったのではないか、

ということも考えられるのです。

前回の記事で触れたそもそもの

「行政書士食えない説」というのは、

絶対的概念で食えないと言っているのか、

相対的概念で食えないと言っているのか。

すなわち、行政書士業という職業自体が食えないのか、

それとも他の事業と比べて儲からない構造だと言っているのか。

世の中には行政書士業で食っている人も

稼いでいる人も沢山いますので、

もし絶対的概念で食えないと言ってる人がいれば、

世間知らずなだけです。

相対的概念で食えないと言われるのが行政書士なのです。

相対概念ですので、

何か別の事業と比較して食えるか食えないかということ。

では、どんな事業と比較して行政書士業は食えないと言われるのか。

飲食店経営者が行政書士業と比較するということは考えにくい。

やはり、○○士業との比較ということになるのではないか。

では、行政書士業はなぜ、○○士業との比較対象になるのか。

そこには、国家試験合格を経て

開業という起業プロセスの共通性があるわけです。

そして、行政書士食えない説を裏付けるかのように、

他士業と比較した行政書士業の開業者は、

開業後に大きな戸惑いを感じることになります。

この戸惑いを一言でいうならば、

何を商売の対象にしていいか分からない。

つまり、仕事がない。

仕事がないから稼げない、

稼げないけど暇はある、

だから受験勉強でもしてもうひとつ国家試験を受けて

ダブルライセンスで、みたいな発想になってしまう。

この「開業しても仕事がない」というところが、

行政書士業が○○士業と大きく異なる点なのです。

私が開業したわけではありませんので、

おそらく他の○○士であろうとも、

開業後に仕事がないという経験をすることは多々あるかと思います。

しかし、行政書士業の場合は質が違い、

そんなの比じゃないほど仕事がないのです。

例えば税理士ならば、国家試験に合格した段階で、

税法のことはその辺の事業主よりも知っています。

社労士ならば、労働法に関してはその辺の事業主よりも知っています。

司法書士ならば、登記法に関しては銀行員や不動産屋よりも知っています。

ところが、行政書士は国家試験に合格しても、実は何も知らないのです。

行政書士業の主要業務で考えてみてください。

建設業許可のことなら土建屋の社長の方がはるかに詳しい。

自動車登録ならディーラーの担当者の方がはるかに詳しい。

風俗営業許可のことならキャバクラオーナーの方がはるかに詳しい。

行政書士試験というのは、他の○○士と異なり、

国家試験に合格しただけでは業務においては全くのド素人なわけです。

私が専門にしている廃棄物処理施設設置についても、

廃棄物のリサイクルを業としている事業主は、

業法(この場合「廃棄物処理法」)を知っています。

行政書士よりも間違いなく、事業主の方が知っています。

別に行政書士に聞かなくても、

自分たちの方がずっと法律にも実務にも詳しいので、

彼らが行政書士に依頼する必要はないのです。

行政書士国家試験には廃棄物処理法は出題されません。

「行政書士は○○士と異なり、専門性がないので食えない」

というのは、このことなのです。

それでも行政書士として依頼を受けようと思うと、

依頼主の方がずっと法律に詳しいけれども、

書類を作る作業が面倒なので行政書士に依頼する、

ということになるでしょう。

これは、単純な代書業務です。

単純な代書業務の先にどのような未来が待ち受けているのかは

私には分かりませんが、

今はやりの「AIによって消える職業」の中に

ノミネートされることは何となく予想がつきます。

もしかしたら、歴史的に行政書士の主たる業務は

単純代書だったのかもしれません。

市場において、本当に恐ろしいのは

同業者との競争や新規参入ではなく、

「代替品の脅威」だと私は思っています。

単純代書は「代替品の脅威」に晒されています。

もっとも、この単純な代書業務でさえ、

業法を知らない行政書士が受任できる可能性は低いでしょう。

事業主は、業法に長けているのみならず、

開業したばかりの行政書士よりかは当然、

経営スキルにも分があるわけです。

許認可申請におけるミスが企業経営にとって

命取りになるリスクを孕んでいることくらいは、当然承知しています。

専門性の欠如こそが、

行政書士を○○士と比較したときの特殊性をよく表しています。

「行政書士試験に合格しただけでは食えない」はその通り。

この特殊性は行政書士業の弱点と言われることが多いですが、

私はこの特殊性こそが実は、

行政書士業の強みなのではないかと思っているわけです。

(河野)

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