第5回 行政書士業における専門特化の概念と具体的な方法論

  • HOME »
  • 第5回 行政書士業における専門特化の概念と具体的な方法論

第5回 行政書士業における専門特化の概念と具体的な方法論


行政書士業には専門特化が必要である、というのは最近は定説化されてきたように思います。
新人行政書士からも「〇〇を専門に頑張っていきたい」という言葉も、よく聞くようになってきました。
これはあらゆる士業の中でも行政書士業に特異な傾向です。
新人司法書士に「不動産登記で頑張りたい」とか、
新人税理士が「税務申告を専門にしたい」と言われても違和感があるでしょう。
司法書士も税理士も社労士も、他士業は国家試験に合格して開業した段階である程度は専門家です。
ところが行政書士は試験合格し、開業したところで専門家ではない。
行政書士が真に専門家になるためには、開業後にあらためて専門分野を選択しなければならない。
これらは前回までの記事で書いてきたことです。



私が開業した頃は、行政書士の専門特化は今ほどには重要視されていなかったような気がします。
この20年の間に「行政書士業には専門特化が必須だ」という知見は一般化してきました。
今でも全国的に有名ないわば「稼いでる行政書士」は、具体的な専門業務とともに連想されるのではないでしょうか。
「何やってるか分からないけど稼いでる行政書士」というカテゴリに位置づけられる人は、私は今のところひとりも知りません。
行政書士には専門特化が必須である、多少の異論はあるとしてもここまでは、定説化されたものとしてこの後の稿を進めていきます。



専門特化が必要だということに関してはもはや定説。
ところが「専門特化」の概念は千差万別、これが私の見方です。
人によって専門特化の意味する内容がまるで異なっているのです。
そして現時点で最大の問題が、専門特化の方法論に関しては全くと言っていいほど議論されていないことです。
専門特化の方法論を議論しようと思えば、まずは専門特化の概念を確定させることが先決です。
でなければ、これは空論に終わるでしょう。



私は15年くらい前から行政書士としての専門特化を意識してきましたが、当時考えていた専門特化の概念と、現在考えている概念はかなり変化しています。
概念の変化は方法論の変化でもあります。
この間に専門特化という言葉を行政書士業界でよく耳にするようになりましたが、この専門特化についての私なりの分析を試みます。



専門特化という概念が行政書士業界に生まれたひとつの契機が、WEBマーケティングでした。
2003年開業の私は、行政書士事務所のホームページの黎明期を目の当たりにしてきました。
多くの行政書士が行政書士事務所のホームページを自作しました。
私も当時、本を買ってきてhtmlを学習しました。
ホームページビルダーで自作していた行政書士も多かったかと思います。



当時の行政書士事務所のホームページは、「〇〇行政書士事務所のホームページへようこそ。
あなたが〇人目の訪問者です。」と書かれてまして、取り扱い業務が一覧表の如く脈略なく列挙されているのです。
そして行政書士同士が「『行政書士 広島』で検索したら何番目に表示された」などと無意味なことを自慢し合っていたわけです。
今考えれば笑ってしまうような時代でしたが、さらに落ちを付けるならば、そんなホームページからでも依頼してくる人が結構いたのです。
2003年のWEBの世界を知る人には、きっとご理解いただける昔話かと思います。



もちろん、そんな時代は長く続きません。
ある頃からは、行政書士業界でも「業種特化型WEBサイト」の必要性に気がつくようになりました。
『行政書士 広島』で検索をするのはどうやら行政書士だけだと気付いた行政書士は、キーワードを意識したサイト作りを始めました。
『建設業許可 広島』『産廃業許可 広島』で検索上位にかからなければ、WEBからの集客は難しい時代になってきたわけです。
この段階になって多くの行政書士が、サイト作りのためには業務を絞らなければならないことを意識するようになりました。
そして、一業種に絞り込んで作成するウェブサイトが「業種特化型WEBサイト」だったのでした。



業種特化型WEBサイトが行政書士業界に一般化するにつれて、「業種特化型WEBサイト」と「専門特化」を混同する見解が続出しました。
専門特化をすることイコール業務特化型WEBサイトになってきて、そこには専門特化の本質が抜け落ちていたわけです。
その例を挙げてみます。



業種特化型WEBサイトを乱立させる事務所が乱立しました。
業種に合わせてドメインを大量に取得し、建設業、宅建業、産廃業、入管、相続と業種特化型WEBサイトを次々と作っていくのです。
建設業のサイトを開けば建設業専門と書いてあり、相続のサイトを開くと一転して相続専門と書いているわけです。



かなり前の話になりますが、私も行政書士向けのWEBサイト作成業者が主催するセミナーに行ったことがあります。
そのセミナーでもひとつのサイトから得られる売上は限りがあるので、分野別に次々と業種特化別WEBサイトを乱立させていくべきだ、という内容でした。
自分自身の専門特化をなんとかサイトに表現したいと思っていた当時の私には期待外れの内容でした。
誤解なきように。
私は業種特化型WEBサイトの乱立戦略を批判しているわけではありません。
これらの業種特化型WEBサイトは、検索の順位を上げるための手段としては理にかなったものなのでしょう。
私が申し上げたいのは、これらは専門特化でもなんでもない、ということだけなのです。
いつしか行政書士の専門特化が業種特化型WEBサイトとセットで語られるようになりましたが、今の私の専門特化の概念は、そんな浅いものではありません。



新人行政書士が開業セミナーに行ったら「専門を3つもちなさい」と指導されたという話を聞いたことがあります。
その新人行政書士は、なるほど!と思い、「建設・入管・相続の三本柱を」というようなことを言っていましたが、その開業セミナー講師のいう3つの専門はせいぜい「窓口を3つもちなさい」という程度の意味で、「業種特化型WEBサイトを3つ持ちなさい」と意味は大差はないと思います。



繰り返しますが、このような方法でも行政書士事務所のWEB集客は可能かもしれませんし、もしかしたらそれがインターネットマーケティングの定跡なのかもしれませんが、行政書士として専門特化するということとは意味合いが異なっています。
そして、全国的に有名ないわば「稼いでる行政書士」の専門性はこのようなものではありません。
専門性の概念が定まらない以上、「どうやったら専門特化した行政書士になれるのか?」という方法論を議論することはできません。
私の考える専門特化の深さを一言で表現するならば、許認可ならばその事業を自分で経営できるくらいの知識、経験、そして人脈を指すものと考えます。
その上で、さらに行政書士としての専門性を深めていかなければならないわけです。



私の選んだ専門特化は廃棄物の世界ですが、十数年必死にやってますが、底が見えません。
一生涯の覚悟を決めて、ひとつの分野に精通していかなければならない。
これが専門特化だと思います。
そして、人に与えられた時間は有限ですので、専門を「選ぶこと」と同時に「捨てること」が必要です。



行政書士としての専門特化を貫いていくための具体的な方法論が、そろそろ議論されてきてもいい時期なのではないでしょうか。
そのための具体的方法論は、専門特化していく分野によってまるで異なるプロセスを辿ることになるでしょう。
私は廃棄物の世界しか知りませんが、廃棄物の世界で専門特化していくためのノウハウはそれなりの蓄積があります。
誰もが廃棄物の分野で専門の行政書士になれる、という方法論まで具体的に語ることは可能です。
もちろん、私自身が未だその道半ばではあるのですが。



業界では私以外にも様々な行政書士が専門特化の必要性を指摘しています。
ところがそのための方法論が分からないから、現実には多くの若き行政書士たちは専門特化したくてもできない。
そろそろ、誰かが専門特化の方法論を言語化し、行政書士業界の一般的な知見にまで浸透させてもいい時期だと思います。



(河野)



【お知らせ】

最後に、私がゲスト参加する2020年10月7日「第2回行政書士zoom飲み会」についてのお知らせです。
広島の時村さん主催のオンラインイベントで、行政書士(ベテランから新人、補助者、これから開業予定者まで)皆でオンライン飲み会をしながら情報交換をしましょう、というゆるいイベントです。
私も参加した第1回は本当にゆるいだけのイベントだったのですが、第2回は乾杯まではちゃんとしたイベントにしましょう、ということで、第1部としてトークイベントがあります。登壇者は石川県会の吉田さんと、広島県会の松本さんという、若手で勢いがある2人の女性行政書士、それに著書多数のベテラン石下さんです。
トークイベント終了後の第2部でのゆる飲み会には吉田さん、松本さん、石下さんに加えて石川県会の濱田さん、広島県会の﨑田さん、それに私もゲスト参加しています。ぜひ楽しく行政書士の未来を語りましょう。


第2回行政書士zoom飲み会

PAGETOP