技術士の鎌田です。
前回のコラムに続いて今回も水質について書いてみます。

前回は水質の分析項目の中でも生活環境項目と言われる
公共用水域や工場排水などの水質を調査する場合のごく基本的な項目のうち、
BOD(生物化学的酸素要求量)について書きました。

分析項目もたくさんあり、その全てについて解説していたのでは大変ですので、
私の経験上、少し難儀したようなことや皆さんに知っておいて
頂きたいようなことを中心に書いていきたいと思います。

今日は、生活環境項目ではなく、健康項目(有害物質等)についてです。

私の知る限り私が分析を大いにやっていたころから生活環境項目は変わっていませんが、
健康項目は時代の変化、産業構造の変化、分析技術の進歩等に伴い、随時、追加されてきました。

大きく分けるとカドミウム、鉛、砒素、水銀、銅、六価クロムなどの重金属類、
トリクロロエタン、テトラクロロエチレンなどの有機塩素系化合物、
チウラム、シマジン、チオベンカルブなどの農薬類、
PCB、硝酸性窒素などのその他の項目に分かれます。

それぞれの項目の持つ意味がありますので、
この分類はあくまでもざっと分けた場合程度に理解して下さい。

昔は8項目程度であったのが、今ではなんと26項目にも増えています。
これ以外にも、環境基準項目として入れていませんが、
要監視項目として、人の健康の保護に関連する物質ではありますが、
実態の検出状況などからみて、直ちに環境基準とはしないで
指針値としている項目などもあり、
いずれさらに増えていくことが予想されます。

このコラムをご覧になっている皆さんは、
廃棄物処分業などを営業されている方々が多いと思います。

処理施設の建設などの際に求められる生活環境影響調査の中の環境項目にも
もちろん水質が含まれています。
有機汚泥を脱水するような施設の場合は、
BODなどを中心とする生活環境項目の調査で問題ありませんが、
医療系廃棄物や廃プラスチックなどを扱い、
施設排水が伴うような事業場の場合は、
やはりここで書いた健康項目について調査する必要性が生じます。

ここで役所のご担当も化学的なことがらについて相応に理解されていれば、
項目の選定について理論的な指導がなされると思いますが、
現実的にはこのあたりはなかなか難しく、結局、
健康項目26項目全てを排水先の河川などで実施することがあります。

これは、コスト的にも非常に事業者への過剰な負担となり得ます。
このような場合は、対象とする廃棄物の含有する成分を調べ、
処理方法を考慮して、分析項目を選定することが大切だと思います。

何しろ、水質調査の場合、河川に排水するような施設の場合、
排水口直近はもとより、河川の上下流2地点、最低限 計3地点で実施する必要があり、
分析機関にもよりますが、健康項目全てを実施すると数十万~100万程度の費用がかかります。

河川の場合、渇水季と豊水季等もあり、
複数回実施すればその何倍にも及び事業者としての負担はかなり大きなものとなります。
含有する成分が多岐に及ぶような場合は全項目検査しても仕方がありませんが、
出来る限り項目を絞り込んで、効果的な調査を実施した方が賢明な対応といえます。

水質が問題になるのは、場内で適切に処理し排水した後の公共用水域に出てからとなります。
それは、廃棄物処理施設以外の他の工場事業場や建設事業などでも同様のことです。

化学物質が次から次と合成され製品などに加工あるいは添加され、
一般の私たちが生活に利用し、その後、何らかの形で排出されます。

下水道や浄化槽などの水処理施設では活性汚泥と呼ばれる微生物による生物処理が基本であり、
このような化学物質の分解はできません。
そのため、昨今、廃プラスチックによる海洋汚染が騒がれていますが、
化学物質の場合は、目に見えない形で河川や海域の水質や底質を汚染し続けている状況です。

国や地方自治体などで行う公共用水域の水質調査では、
これらの化学物質や有害物質が検出されないことが多いですが、
検査には当然ながら測定精度が伴い、
だいたい項目による一定の検出下限値までしか分析することはできません。
そのため、どこの測定結果をみても有害物質(健康項目)はほとんど検出されていない、
安心だね、などと勘違いしがちです。

想像してみてください。
あの広い海に調査船が出て行き、
サンプリング機材で何リットルか採水し、それを分析します。
もちろん定期的に何度も何度も継続的、計画的に行いますが、
宝さがしのような状態です。
検出下限値以下になってしまうのは当然と言えば当然です。

しかし、小魚などの生物はプランクトンを餌にして生きていますが、
それらを食する時に大量の海水を飲みこみ、小魚の体内に蓄積されます。

その小魚を餌とする大型の魚はそれらをまとめて食し、
私たち人間はそれらを漁業として採取し、
結局、巡り巡って私たちの体内に帰結するという残念な流れとなります。

まさに、食物連鎖です。
小魚だけには限りません。海底などに生息する貝類などの場合は、
水質のみならず底質中に堆積した有害物質も食するため、影響は非常に大きいです。

少し大げさに書いた感じかもしれませんが、これがおおむね現実です。
豊かな暮らしや快適な暮らしを求めるあまり、
次から次へと新しい化学物質が合成され、
人体にどれだけ影響があるかというリスク評価もままならず、
排出されているわけです。話しが水質の有害物質から少し脱線してしまいましたが、
化学物質や有害物質を考える場合、おのずとこのあたりに話しが及んでしまいます。

日本は、戦後の復興期から見事に高度経済成長を成し遂げ、
その後、公害列島と言われるような苦い経験をしました。
ただ、日本の技術力は相当なもので、水処理技術の開発を懸命に行い、
法整備も同時に行われ、それらを解決したかのように思われています。

思い切ってお話しすると、後追い行政などという言葉があります。
要は、事が起こらないと、被害が起こらないと、
役所はなかなか動いてくれないというものです。

国や県などの機関で高度な研究を行っているところももちろんあります。
ただ、それらが実を結び実態調査や法整備へと結びつくのはごくわずかではないでしょうか。

財政のひっ迫している行政が、仕方がないかもしれませんが、
巡り巡って自分たちの健康を蝕んでいる状況をやはり
一人一人が自覚することが大切だと思います。

廃プラスチックにしても、マスコミや企業などでやっと取り上げられ、
具体的な対策も徐々に動き出しましたが、
スーパーのレジ袋や様々なプラスチック容器などと違い、
目に見えない環境中の化学物質について、
今の廃プラスチックのように注目されるのはかなり先の先の話しになるかもしれません。

以前、満杯となり閉鎖された一般廃棄物の
最終処分場の浸出水の調査を行ったことがあります。

一級河川のすぐ横の沢地形のところに位置し、
少し下流部に広域水道の取水口などがあるような場所でした。
周辺には水田も広がり営農も行われていました。
浸出水を何度か調査するうち、
pHやCODなどのような一般的な項目が何故か高めでおかしいなと感じ、
埋立跡地の地下水の分析を提案したことがあります。

初めは寝た子を起こすような話しになりますので、
役所の担当者も少々困惑していましたが、
周辺で農業が盛んに行われていることや下流部が水道水源となっていることなどが後押しし、
現地調査に踏み切ることができました。

ボーリング調査井戸を何箇所か設け、深度に応じて地下水を採取し分析した結果、
やはりPCBや重金属類が検出され、
最終処分場埋立跡地の環境対策を原点に戻って行うことになりました。

今では考えられないような話しですが、
昔は種々雑多な廃棄物がほとんど環境対策も施されていないような処分場に
次々と廃棄され埋立てられていった大きなつけが回ってきた感じでした。
便利な生活、快適な生活の裏にこのような現実もあることを忘れないようにしたいものです。

技術士(総合技術監理部門・建設部門) 鎌田真裕