第4回 専門性と「職業としての行政書士」

第4回 専門性と「職業としての行政書士」

 

 

前回まで3度にわたって、私の「行政書士経営論」を語ってきました。

2003年、当時23歳で行政書士事務所を開業し、

今年2020年で業歴18年目を迎えたことになります。

最初は何でも屋でしたが、2008年から廃棄物処理の世界に専門特化し、

廃棄物、そして環境一筋でここまで事務所経営を継続してきました。

 

 

 

ここまで専門特化を貫いてきた行政書士も少数派だと思っています。

では、私が廃棄物や環境を「知り尽くしているか?」と問われると、

まだまだ全くそのような領域ではありません。

これは謙遜でもなんでもなく、廃棄物や環境の世界は本当に奥深く、

一生涯をかけて探求し続けるものであると考えているからです。

私のいう「専門特化」というのはそのようなものであり、

例えばウェブサイトに「産廃専門」と書くこととは

まるで次元の異なる話なのです。

 

 

 

今ではほぼ旧説と化した「行政書士食えない論」の論拠として、

しばしばこのように言われてきました。

 

 

 

「行政書士は専門性がないから食えない」

 

 

 

これに対して、私の見立てはこうでした。

 

 

 

「行政書士は専門性が高いがゆえに食えない」

 

 

 

まずは、行政書士は専門性がないから食えない、

という旧説の論拠を分析、考察してみます。

この論者は、「専門性」が事業に不可欠な要素であることに気づいてます。

論理的には、「食える事業ならば、専門性がある」ということを言っているのです。

 

 

 

この論理自体には、私は共感しています。

すでに成立している事業を事後規範的にみれば、

食える事業に専門性が必ずあるのかと言われればそうではないかもしれません。

しかし、これから事業を起こそうとしている起業家にとっての

事前規範的な見方に立ったときには、

食える事業ならば、専門性がある

という命題を受け入れるべきだと思っています。

 

 

 

上記の論理は正しいという前提のもとに、

それでも「行政書士は専門性がないから食えない」

という命題は誤っていると私は考えているわけです。

どこが間違っているのかと問われれば、

「行政書士には専門性がない」の部分だということになるわけです。

 

 

 

論者の多くは、行政書士に専門性がない論拠をこう挙げるでしょう。

 

 

 

「行政書士試験の科目を見てください。

建設業法は入ってますか?

宅建業法は入ってますか?

廃棄物処理法は入ってますか?

道路運送法は入ってますか?

入管法は入ってますか?

何も入ってないじゃないですか。

何も知らない国家資格者が、なぜ専門家なんですか?」

 

 

 

このシャープな指摘に対する私の回答は、次のようになります。

 

 

 

「あなたは行政書士を行政書士試験合格者と定義して、

行政書士試験に合格しても専門性を得られないと言っている。

それは「行政書士試験合格者には専門性がないので、食えない」という命題だ。

私は行政書士を行政書士法に基づき

「他人の依頼を受け報酬を得て官公庁に提出する

書類を作成することを業とする者」と定義する。

市場において専門性を欠如した者が

「他人の依頼を受け報酬を得」ることはできない。

なぜならそれが自由市場の機能だからだ。」

 

 

 

私の上記見解は、2つのことを言っています。

 

 

 

①行政書士試験合格者と行政書士は別概念である。

行政書士が食えないことを論証するのに

行政書士試験合格者の専門性欠如を論拠とするのは筋違いである

 

 

 

②行政書士とは、行政書士試験合格者であり、かつ専門性を有する者であり、

専門性は行政書士試験以外の方法で必ず身につけなければならない

 

 

 

もう少し付言しておきますと、

行政書士という概念は多義的でして、

行政書士会に登録費用を払って登録された人も行政書士と呼ばれます。

この中には全く仕事をしてない人もいます。

こういう人を含めた定義を、

「制度としての行政書士」とでも呼びましょう。

 

 

 

私は行政書士の定義に行政書士法の規定を用いましたが、

先ほど申したようにそれには依頼を受け、

報酬を得て業を営むという限定が入っています。

私の行政書士の定義には自由市場において

交易をしている人のみが該当します。

「職業としての行政書士」と格好よく呼びましょう。

 

 

 

ここまで説明すると、私の立てた以下の命題の真意は見えてくるかと思います。

 

 

 

「行政書士は専門性が高いがゆえに食えない」

 

 

 

以前の記事に書いたように、

税理士でも司法書士でも社会保険労務士でも、

試験に合格した段階で法律や制度に関しての知識は保障されています。

ところが、行政書士試験はそうではない。

行政法を知っていることなど、

行政書士業務には直接にはなんの役にも立ちません。

 

 

 

では、行政書士が専門性を身につけるためには、

何を知らなければならないのか。

それが、行政書士試験に出なかった個別法なのです。

 

 

 

建設業法、宅建業法、廃棄物処理法、道路運送法、入管法。

これらの個別法を知らなければ、

行政書士としての専門性など全くの皆無であるということです。

これらの個別法を熟知する過程というのは、ものすごくハードなのです。

ハードとはすなわち、専門性が高すぎるということなのです。

多くの人は高い専門性を前にして、行政書士業を諦めます。

 

 

 

個別法は無数にあり、

日本の法律のほとんどが行政法の個別法だったりします。

これを全て知り尽くすことは誰にも無理なので、

社会的分業というシステムを利用するわけです。

私は社会的分業の中で、

廃棄物処理法と関連法のみを何年も読み込みましたが、

宅建業法も入管法も一度たりとも読んだことがないのです。

これが専門<特化>だと私は思っています。

専門は何かを選ぶこと、

特化はそれ以外を捨てることを指すのです。

 

 

 

個別法は業法などと呼ばれるように、

その業界に特有の現象を規定しています。

なので、業界のことも知らない限りは、

業法を理解することはできません。

とび土工工事を見たことがない人には建設業法は理解できず、

廃プラスチック類を見たことがない人には廃棄物処理法は理解できません。

 

 

 

そして、専門特化を実践するために理解する法律はそれ一つではありません。

ここでは、「最高裁判所のベストヒットアルバム」※

と評される行政事件訴訟法92項を挙げてその説明に代えます。(大橋教授)

 

 

 

裁判所は、

処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する

法律上の利益の有無を判断するに当たつては、

当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、

当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において

考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。

この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、

当該法令と目的を共通にする関係法令があるときは

その趣旨及び目的をも参酌するものとし、

当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、

当該処分又は裁決がその根拠となる法令に

違反してされた場合に害されることとなる

利益の内容及び性質並びに

これが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

 

 

以上、長々と私見を披瀝してきましたが、

私の考えに対する反発もあるかと思います。

もちろん、「職業としての行政書士」にも様々なタイプの方がいらっしゃいます。

そういったいろんな方のお話を聞くのも、

新人行政書士には貴重な機会だと思います。

 

 

 

今月末に行政書士フォーラム2020というイベントが開催されます。

例年は東京の会場で催されていましたが、

今年はzoom開催となりました。

このイベントには、様々な分野、様々な方法で

成功されている行政書士がおそらく10名くらい登壇し、

行政書士業を巡るテーマで議論するものです。

 

 

 

私にも声をかけていただきましたので、参加させていただくことになりました。

ここでの私の「特異」で「異端」な行政書士経営論を中和する意味でも、

いろんな方のお話をお聞きしていただきたいと思っています。

行政書士フォーラム2020

(河野)

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