相変わらず日本全国を回って、色んな廃棄物処理業や機械メーカーの方とお会いする毎日を過ごしています。

先日、あるインターネットラジオの番組に出演させていただいたのですが、その中で「頑張れば河野さんのようになれますか?」という質問をされました。私のようになりたい人がいるのかどうかは分かりませんが、「なれるでしょうけど、廃棄物処理専門の行政書士は大変ですよ」と答えておきました。

この仕事、日本全国で仕事があるので、なかなか家に帰れません。近所の仕事だけを請けようなんて都合のいいことを考えたとしても、処分施設は案件数が少なすぎて、近所の仕事だけでは行政書士業として成り立たないのです。

我々行政書士としては、事務所の近場だけでは案件数が少なすぎるので、全国で商売をしないとやっていけないという大変さがあるわけですが、それは私達行政書士としての立場からの話。立場変わって「廃棄物処理施設設置を専門家に依頼したい」と考えている業者にとっても、これはまた同様に大変なのです。近所を探しても廃棄物処理を理解している行政書士はまずいない、という事態に陥るわけです。

そんな極めて特殊なニーズが日本全国に散らばっている以上、行政書士としては、そのニーズに応えられるように配荷していくべきです。廃棄物専門の行政書士は、知識経験を有しているだけでは駄目で、全国にそれを配荷するための気合と根性と体力が求められることになります。

私は現在、東京のオフィスにいますが、昨日は長野で一昨日は大阪、その前が京都。旅好きじゃないとやってられない仕事です。そういったお話も少しラジオで喋ったのですが、公開はもうしばらく先。その際には、このWEBサイトで公表いたしますので乞うご期待。

今回は施設設置許可とそのためにかかる費用の見積をテーマに、ブログを書いてみます。すぐに施設設置の見積もりを出せる業者が存在するとのことですが、私にとってはそのことが非常に不思議で。私の一応の結論は、なにも調査をせずに見積もりを出しているんではないかと。

「中間処理場を作りたいんだけど、費用はいくらかかりますか?」

この質問が電話でも直接お会いしているときでもよくあるのですが、回答をするのが非常に難しいのです。別にもったいぶっている訳でも、駆け引きがしたい訳でもなく、答えようがないのです。

「大体いくらくらいかかるかわかるでしょ?」

と言われることもありますが、その時点では本当に分からないものなんです。

ところが、この時点で他社の見積金額を伝えられることもあるのです。

「インターネットで調べたところに電話したら、300万くらいと言われた」と。

こういった話を時々聞くのですが、この段階で見積もりなんてできるはずがない、といのが私の経験上の結論なのです。以下、見積もりがそう簡単にはできない理由を挙げてみます。

1 許可が下りるのかどうかさえ分からない

まず、そもそも許可が下りるのかどうかさえ、調査前の最初の段階では分かりません。たとえば、計画地の土地の情報を見てみなければ分かりません。この際には、都市計画法や建築基準法が問題になろうかと思います。

また、そもそも都市計画法、建築基準法が問題になるに先立って、どのような廃棄物(品目)を、どのような処理方法で処理するのかをかなり詳細に確認しておかなければ、都市計画法や建築基準法にどのようにかかってくるかさえも判断不能ということになります。

ときどき、

「うちは工業地域(または工業専用地域)だから大丈だと思う」

「近所に他にも中間処理場があるから大丈夫」

等々、事業者がなんとなく判断しているケースがありますが、この安易な判断は私にはできません。私の言葉を信じて土地を購入したり、設備投資をした後に、よく調べてみると許可が下りない土地だったと判明した場合に、責任の取りようがないからです。

たとえば、工業地域であっても近隣の住宅地からの距離によっては建築基準法の許可が必要になるかもしれません。これは、詳しく調査をしてみないと誰にも分らない話なのです。

隣が中間処理やってるから大丈夫だろう、という話もよく聞きます。ところが、調べてみると隣の既存施設は金属くずの破砕・切断施設で、この度の新設施設計画は廃プラスチック類の破砕・圧縮梱包施設だったとします。この場合、既存施設と新設施設で同じ中間処理場といっても、許可の条文が違う、つまり法的には「全く異なる許可だった」ということになるわけです。前者は14条許可、後者は14条と15条の許可。15条の許可の要件の方が厳しいわけで、隣に中間処理場があるからと言って15条の許可が下りるなどと楽観的なことは到底言えないのです。

近隣にがれきや木くずの破砕施設があるから、ここでも破砕施設が作れるだろう、というのも極めて楽観的な見通しの例です。この場合に私が気にするのが、「その施設はいつから稼働していたのか?」ということ。法律ができるより前から稼働していた施設は、「みなし許可」施設として、現行法では許可の基準を満たしていない状態で営業ができているということもあり得るのです。むしろ実例は沢山あります。

土地が分かって、廃棄物が分かって、処理フローが分かって、その上で調査をしない限り、許可が下りる可能性があるのかどうかさえ不明です。この段階で見積もりを出せる業者というのが、私には不思議でならないわけです。

2 どのような許可やアセスが必要かが分からない

これも本当に難しい問題です。中間処理の許可と言っても様々で、特に14条の許可のみになるのか、加えて15条の許可も必要になるのかが大きな分岐点です。金属の破砕機に廃プラスチック類も入れようと考えると、15条の許可が必要になるのです。15条の許可が必要になれば、建築基準法51条但書許可、都市計画審議会、生活環境影響調査が必要になる可能性があります。

生活環境影響調査と一言で言っても、調査項目によって費用も期間も全然違うということになります。費用的にも期間的にも大きなウェイトを占めるであろう生活環境影響調査について、「アセス別途」として見積もりをするのは余りにも無責任なのではないかと私には感じるのです。 

15条施設に該当するか否かの判断の盲点として多いのが、「汚泥の脱水施設」と「汚泥の乾燥施設」です。受入れ品目の中に汚泥がなかったとしても、廃棄物処理の工程の中にスクリュープレスやフィルタープレス、ベルトプレス、遠心分離等の脱水機が入っていると、この工程をもって施行令7条の「汚泥の脱水施設」と判断され、15条施設と解釈される可能性が十分にあります。堆肥化施設といっても、途中の堆肥レーンに乾燥目的に熱源がある場合はこれが同様に施行令7条の「汚泥の乾燥施設」であると判断されることもあり得るわけです。(熱源がなければ乾燥施設とはいえども天日乾燥施設として、裾切りがかなり大きくなります。)これらは、廃棄物処理フロー図や工場の計画図面を見ない限り、判断できないというのが私の考えなのです。

3 条例手続の有無

廃棄物処理施設設置にあたって、法律に基づく手続は当然ありますが、法律に基づく手続の前段に条例手続を求めている自治体もあります。多くの場合、施設設置に当たって関連する住民機関等との合意形成を図りながら進めてください、という要望を手続規定にしたような条例なのですが、これが入ると途端に設置手続が大変になるということもあります。条例手続の詳細については、各都道府県及び市町村に個別に問い合わせるしかないでしょう。

廃棄物処理施設を設置しようと思えば、法律のみならず条例も調査したうえで、専門家としての見積もりをしなければなりません。条例は都道府県や市町村がそれぞれに制定しているわけで内容は様々です。条例手続が入れば、年単位で計画が延びるかもしれません。とても、概算で見積もりを伝えれるような内容ではありません。

4 そもそも許可不要の施設かもしれない

これも、実際にあり得る話です。たとえば、搬入段階ですでに有価物となっている場合や、自社処理で施設設置許可の対象外の施設の場合がありえます。

中間処理施設から排出された廃プラスチック類の破砕後のチップを有価で受け入れて、それをペレットに加工する工場の場合。受入れ段階で、すでにチップは有価物であるとすれば、チップはペレット製造業のあくまでも「原料」という扱いになります。そうすると、ペレット化の工程には廃棄物処理は関係していませんので、そもそも許可不要の施設だった、ということになります。(なお、この場合おそらく、チップを海外に輸出すれば廃棄物、国内消費すれば有価物という相対的概念になります。ここは国内法のみを考えていますが、実務上は海外の事情は重要。)

次に食品工場から排出される食品残さ。品目で言えば動植物性残さ。これを自社の施設で焼却したらどうなるでしょうか?

日量200㎏と火格子面積の裾切りはありますが、それ以上の規模の施設の場合には、15条の施設設置許可が必要になります。一方、小型の焼却炉で施行令7条で定める規模以下の施設なら、無許可で焼却可能になります。

裾切り以下の施設ではとても処理できないとして、もう少し処理能力の大きい施設が必要になったとします。この場合に、焼却という処理方法を選ぶから、施設設置許可が必要になるわけです。それでは、焼却炉の代替技術である亜臨界水処理法式(仮に処理量は20㎥/日)を利用したら、今度はどうなるでしょうか?

この場合は、あくまで自社物の処理ですので14条の許可は不要です。また、亜臨界水処理が施行令7条の施設に該当しないとすれば、15条の許可も不要です。この場合も、そもそも許可が不要の施設だった、ということになるわけです。

もしも、許可不要の施設に対して許可申請の見積もりを出したならば、それは滑稽ですし、専門家としては本来あるべき姿とはいえないと私は考えるわけです。調査もせずに概算で見積もりを出す業者というのは、本当に廃棄物処理に精通している専門家なのかが、私には疑わしい。

以上、見積もりに関して長々と書いてしまいましたが、結論としては、きちんと調査をしないと金額も期間も、そもそも許可が取れるのか、許可が必要なのかも、なに一つ確定できない、ということです。そして、謎に世に出回っている「調査のない見積もり」にも注意していただきたい。また私自身も見積もりを出すまでに相当の調査時間と若干の調査費用をいただいております。 

(河野)