今回は、ブログに付いた質問コメントに対して回答をしてみたいと思います。

T様という方より、以下の質問がありました。                       

「廃プラを直接燃焼し熱源として活用出来ないのでしょうか?」

T様の上の質問に対し、

「廃プラを焼却し熱源として利用できるのは、至極当たり前ではないか?」

という即答をされそうではあります。

たった一行の質問なので、前提条件が抜け落ちているために少し分かりにくいのではありますが、おそらくT様の考えていたことは、以下の趣旨ではないでしょうか。

  • 廃プラを廃棄物焼却としてではなく、重油の如く直接燃料として、すなわち有価物として利用できないか
  • つまり、15条無許可で廃プラを焼却できないか

この手の質問は、私は非常に多く受けますので、おそらくT様の質問意図もそういうことであろうと思われます。

以下、T様の質問をそのように理解した上で、私の考えを記事にしてみます。

そもそも、廃プラスチック類の焼却施設にはどのような許可が必要になるのかについて、まず解説します。

事業活動に伴って生じた廃プラスチック類というのは、廃掃法2条4項に書いてある通り、産業廃棄物に該当します。

事業活動以外によって生じたプラは一般廃棄物ということになりますが、ここでは、産業廃棄物の廃プラスチック類を念頭において話を進めます。

廃プラスチック類の焼却施設の場合、廃掃法施行令7条8号に定める廃プラスチック類の焼却施設に該当する可能性があります。

小規模裾切の除外規定に該当しない限り、施行令7条の処理施設です。

すなわち、廃プラスチック類の焼却施設を設置しようとすれば、廃掃法15条の施設設置許可を都道府県知事等から受けなければならないわけです。

廃掃法15条許可を受けるに当たって、いくつか問題になってくる可能性があるものを列挙してみます。

  1. 建築基準法51条但書許可及び近隣住民への説明会
  2. 都市計画審議会
  3. 都市計画法にかかる制限(例えば市街化調整区域か、市街化調整区域か、都市計画区域外、準都市計画区域か等により、施設設置できない場合があります)
  4. 生活環境影響調査(焼却の生活アセスは破砕等と比較してコストがかかります)
  5. 条例手続(廃掃法の許可申請のための事前協議前に、関係住民等との間で円滑に合意が形成されるための手続を別途求められる場合は、廃掃法の許可申請の事前協議開始までに時間を要する可能性があります)

廃掃法15条の施設設置となると、

そもそもその土地では許可が出ないかもしれません。

許可が出るとしても、想像以上に時間がかかるかもしれません。

さらに、大きな費用がかかるかもしれません。

廃掃法15条の施設設置許可の上記困難さは、ときに事業者に事業を諦めさせることもあるわけです。

廃掃法15条の許可を取得することが事業者の大きなのハードルになるとすれば、このハードルを何らかの方法で回避することはできないか。

T様の質問の意図は、そこにあったのではないかと思われます。

廃掃法15条の許可を回避しながら、廃プラスチック類を焼却する方法はないものか。

正攻法の裾切(処理能力100㎏/day以上または火格子面積2㎡以上)以下の焼却炉という以外に考えられるのは、以下のいずれかの方法ではないでしょうか。

  1. そもそも、この施設の処理方法は「焼却」ではない
  2. そもそも、このプラスチック類は「廃棄物」ではない

1「焼却ではない」と言うのも、おそらくひとつの方法でしょう。

廃掃法施行令7条は、限定列挙です。

施行令7条に挙がっていない施設に関しては、15条の許可は不要なのです。

焼却に該当しない別の化学反応であることが証明されれば、それは15条の許可の不要な施設ということになります。

しかしこれは、許可申請の前段階において、科学技術的な話に深入りしなければならず、証明の困難さが付きまといます。

それに対して、2そもそもこのプラスチック類は「廃棄物」ではない、と言い張ってみるのはどうでしょうか?

これこそが、T様の質問内容ではないかと思われます。

もう一度、T様の質問を掲げておきます。

「廃プラを直接燃焼し熱源として活用出来ないのでしょうか?」

これは、

  • 廃プラを燃料として利用すれば、廃プラは有価物であり廃棄物ではない
  • 廃プラという燃料=有価物を焼却しているのだから廃棄物処理施設ではない
  • 廃棄物処理施設ではないので15条の施設許可不要

と言えるのではないか、という見立てです。

大前提に立ち返って考えてみます。

廃掃法は、廃棄物処理に関してのみ規制をしています。

廃棄物とは、廃掃法2条の定義によれば、「ごみ、…その他の不要物」ということになります。

「焼却」とは「燃焼」のことだと仮定して話を進めれば、廃掃法15条及び廃掃法施行令7条は、燃焼炉一般に対する法規制を置いているわけではなく、廃棄物の焼却(燃焼)施設に対する法規制を置いているわけです。

もしも、燃焼させるものが廃棄物でなければ、廃掃法15条の施設設置許可はそもそも不要ということになるわけです。

T様の挙げた例では、廃プラを直接燃焼し熱源として活用していますので、廃プラは燃料(有価物)として燃焼させているだけで、廃棄物処理は行っていない、つまり施設設置許可不要という解釈が成り立ちそうな気がします。

そうであれば、「有価物たる廃プラ」(変な日本語ですが)は無許可でどんどん焼いてしまえばいい、ということになりそうな気がしなくもないですが、これをどう考えるべきでしょうか。

補足:当然のことながら、この「有価物たる廃プラ」なるものを燃焼施設に受け入れる際には、施設側は廃棄物処理費を形式的にも実質的にも受け取っていないことが前提です。処理費を受け取れば、そもそも「廃プラ」であって「有価物」ではありません。

この論点は、廃棄物か有価物か、その区別をどのような基準で行うべきかという点に関わってきます。

ここで私たちは、最高裁の示した廃棄物の判断基準に立ち返らなければなりません。

廃掃法2条の「ごみ、…その他の不要物」に該当するかの判断基準として、かの有名な「おから事件」で、最高裁は以下の判断基準を示しています。

  1. 物の性状
  2. 排出の状況
  3. 通常の取扱い形態
  4. 取引価値の有無
  5. 事業者の意思

廃棄物に該当するかどうかは、これらを総合的に勘案して決めるのが相当である、と最高裁は示しているのです。

これが総合判断説です。

T様の質問に対しては、燃料にしようとしている廃プラが廃棄物に該当するのかどうかは、上記5つの基準をもとに判断することになります。

廃棄物に該当する以上は15条の施設として設置許可が必要、廃棄物でないなら廃掃法の施設設置許可は不要です。

最高裁判例の基準に従い、先ほどの燃料になりそうな廃プラをチェックしますと、

  • 通常の取扱い形態
  • 取引価値の有無

あたりが問題になりそうです。

しかし、通常の取扱い形態とは何を指しているのか、取引価値の有無はどのように判定するのか、条文や判例には明確な指針はありません。

私たちがここから先、廃棄物処理の実務を考えていく上で法解釈の参考にするのが、環境省の通知です。

環境省通知は規制対象である行政庁自身が示した法解釈ですので、それが常に正しいわけではありませんが、これを基準にしなければ実務は進みません。

平成25年3月29日付の通知の中に、先ほどの廃プラの例にそのまま適用されそうな文言があります。

「本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れようとする事案が後を絶たないが、このような事案に適切に対処するため、廃棄物の疑いのあるものについては以下のような各種判断要素の基準に基づいて慎重に検討し、それらを総合的に勘案してその物が有価物と認められるか否かを判断し、有価物と認められない限りは廃棄物として扱うこと。」

これを言い換えると、

  • 廃棄物でありながら、有価物と称して廃掃法の規制を受けずに処理しようという脱法行為がたくさんある
  • 以下の判断基準(=総合判断説とその解釈)に従い、有価物か廃棄物かを判断しなければならない

ということです。

この通知は、最高裁が掲げた5つの判断基準についてこの後に続けていますが、先ほどの廃プラ燃料に関し問題になりそうな「通常の取扱い形態」と「取引価値の有無」について、環境省通知に示された解釈の基準にあてはめて考えてみます。

1 通常の取扱い形態について

通知「製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと」

当該廃プラの燃料としての市場が形成され、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないと言えるか?

2 取引価値の有無

通知「占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること。実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること」

廃プラの有償譲渡性、廃プラ取引の客観的な経済合理性、廃プラの有償譲渡実績云々…

上記1、2を勘案すると、

「廃プラを直接燃焼し熱源として活用することで、廃プラは廃棄物ではない」

を根拠に廃掃法15条の施設設置許可を回避することの困難さは明白かと思われます。

廃プラを燃料(有価物)として利用するので、廃棄物処理ではない、という論理は、

環境省通知で警戒されている
「本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れようとする事案」
に該当する可能性が高い、ということになろうかと思います。

これが廃プラを加工して製造したRDFを燃焼させるものであれば、廃棄物処理には当たらないと言える可能性が高いとは思いますが、RDFと廃プラでは総合判断説の5つの基準に照合した際に、大きな差異が生まれることにならざるを得ないわけです。

似たような話で、
「動物の糞尿や食品残渣を発酵させて作った堆肥を焼却するのに許可は必要か?」
という問題があります。

動物の糞尿や食品残渣に関しては、産業廃棄物に該当します。
これを発酵させて堆肥にする施設は、廃掃法施行令7条に列挙はなく、廃棄物処理施設ではありません。

そして堆肥に関しては、農業利用可能で販売可能であることから、すでに有価物になっており、有価物を焼却する行為は廃掃法の埒外ではないかという解釈なのです。

なるほど、確かに販売可能な製品になった以上は、有価物と言ってもいいような気がします。

ところがこの場合も、その有価物と言われる堆肥は、「本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れ」るためのものではないかと疑われるのです。

堆肥がこのように疑われる理由は、市場の需要量に釣り合わない供給量が廃棄物処理過程より発生する可能性があるためです。

そもそも、堆肥としての農業利用での需要が、廃棄物処理から供給される量に相当する程度あれば、堆肥を焼却しようというそもそも不合理な考えは出てこないと言えるでしょう。

以上、T様の質問に対する私の回答とさせていただきます。

もしかしたら、記事の内容がT様の質問の意図とは異なってしまっている虞もありますが、ご容赦いただければと思います。

(河野)