長年、廃棄物処理の許認可実務に

関わっていますと、廃棄物処理法を解説した

書籍の記述に満足ができないことが多くなります。

 

 

 

分かりやすく書かれているであろう本はいくつもありますが、

それを深く読み込むと論理矛盾にあたってしまい、

廃棄物処理法の趣旨が全く分からなくなってしまうのです。

 

 

 

廃棄物処理法は矛盾を抱え込んだ法律であると

割り切った方が理解するにはいいのかもしれません。

ですが、この法律を矛盾のないひとつの筋が通った

理論のもとに理解してみたいというのが、

廃棄物処理法に向かい合ってきた私の長年の目標でもあります。

今回は、矛盾に満ちたように見える廃棄物処理法について、

私が考える理解を助けるであろう知識や著作について紹介します。

 

 

 

廃棄物処理法の抱える矛盾の詳細はここでは触れませんが、

廃棄物処理法の体系的理解のためには、

いくつかの前提知識が欠かせないと私は考えています。

ひとつは、廃棄物処理法成立の歴史的経緯と廃棄物処理法成立時の時代背景。

これは矛盾を生んだ理由でもあります。

もうひとつは経済学的視点。

 

 

 

廃棄物処理法の歴史的経緯については、

廃棄物処理史を研究する溝入茂氏の著作

「廃棄物法制ー半世紀の変遷」(リサイクル文化社)に

詳細に記述されています。類書はありませんので、

ぜひ読んでいただきたいです。

 

 

 

いわゆる「ごみ」の歴史は「廃棄物」の歴史よりもはるかに古いものです。

「廃棄物」という概念が法律に誕生したのは

昭和45年の廃棄物処理法からで、

それまでは清掃法という法律がごみを規制していました。

さらにさかのぼると清掃法の前身である

汚物掃除法という法律が明治33年に成立しており、

廃棄物処理法の歴史は清掃法、汚物掃除法まで含めると

実に120年以上の歴史を有するということになります。

これは換言すれば「ごみ行政」の歴史でもあるわけです。

 

 

 

明治から令和までの120年は、人類史上もっとも

変化の大きな時代であったと言えるかと思います。

社会的にも経済的にも大きな変革の時代の中で、

生活や経済活動の中から必然的に発生する

「ごみ」にも当然大きな変化があったわけです。

その変革の中で生まれたのが、

昭和45年に成立した廃棄物処理法です。

 

 

 

廃棄物処理法誕生前夜。

当時の日本は、高度経済成長の副作用ともいえる

激甚公害に見舞われていた時期でもありました。

大気汚染防止法や水質汚濁防止法と同時期に、

廃棄物処理法は公害対策のための法律の一貫として誕生しました。

廃棄物処理法は、不法投棄や不適正処理による公害発生の

防止という目的も持たされたのでした。

旧清掃法の目的は公衆衛生の向上にありましたが、

公害問題の原因は有害な化学物質であり、

伝染病対策等を想定していた公衆衛生という

概念で公害を抑制できるはずがありませんでした。

 

 

 

当時、社会問題になっていたのは、

主に工場から発生する廃棄物だっとと思われます。

そこで、廃棄物処理法には「産業廃棄物」というカテゴリを設け、

新たな規制をすることになります。

そして、排出事業者責任という概念につながることになります。

 

 

 

このあたりの時代背景を興味深く

ドキュメンタリーのごとく著しているのが、

環境問題を専門とするジャーナリスト杉本裕明氏の

「産廃編年史ー廃棄物処理から循環へ」(環境新聞社)です。

この本には、ごみ・廃棄物問題、そして公害・環境問題に

立ち向かった数多くの先人達の生々しい言葉が多数綴られています。

やっと成立した環境法規に経済調和条項(つまり環境より経済優先)が

付されていた時代です。経済発展との対比では、

環境の地位の低さは否めません。事業者・行政問わず、

「環境」の相対的地位を高めていったのは、

環境に関わってこられた諸先輩方の苦労の賜物と実感します。

廃棄物処理法の条文や解説書を読んでも、

どうも廃棄物処理法が分かった気になれないという方には、

ぜひこの本を読んでいただきたいです。

廃棄物処理法が公害問題とは切り離せない法律だということも、

この本の記述から実感していただけると思っています。

 

 

 

「ごみ」の歴史、

廃棄物処理法成立時の時代背景に関する知識は

、廃棄物処理法の理解を助けます。

しかし、もう一つ私が必須だと考えるのが、経済学的視点です。

「ごみ」問題を、経済学では「市場の負の外部性」として認識します。

誰かが経済活動によって利益を得ているにもかかわらず、

「ごみ」処理にかかる費用を負担しない場合。

これはすなわち不法投棄になるのですが、

「ごみ」処理にかかる費用を誰も負担しなければ社会は

「ごみ」で溢れかえります。

それを税金で負担したとすると、

誰かが税金負担を受けながら経済活動を

おこなっているという不公平な状態になります。

工場廃液を水処理(浄化)するには費用がかかりますが、

海に垂れ流すならタダです。

工場を経営する事業者が利益を最大化しようとすると、

水処理などせずに垂れ流しが一番合理的ということになるわけです。

そうすると、他社も当然汚水を垂れ流すわけです。

なにしろ、水処理をすればその費用は価格に

転嫁されなければならないので、

垂れ流した工場の製品よりも高くなってしまい、

市場で売れないわけです。

 

 

 

このような「負の外部効果」を内部化する目的を

もって生まれたのが廃棄物処理法なのです。

廃棄物処理法は、経済学的視点を抜きに理解することは

できないと私は考えています。

そして、この経済学的視点は、「ごみ」の歴史、

廃棄物処理法成立時の時代背景とも非常に整合的なのです。

 

 

 

ごみ問題に対する経済的な視点を理解するには、細田衛士氏の

「グッズとバッズの経済学 循環型社会の基本原理」

(東洋経済新聞社)が優れています。

マクロ経済学等に関する知識が全くない方でも

読める記述になっていると思います。

古典派経済学に関する本を読んだあとに読めば、

非常に面白いのではないかと思います。

 

 

 

実は、私自身も廃棄物処理法の許認可実務を行う際に、

法解釈が必要になりますが、細田先生の学説を法解釈の

理解に利用させていただいています。

そして、細田先生の学説をもとにした法解釈は、

行政の担当者との考え方の調整にも非常に使いやすいのです。

 

 

 

(河野)