廃棄物処理法には、比較的簡易な環境アセスメントとして

生活環境影響調査を規定しています。

簡易な環境アセスメントのため「ミニアセス」と呼んだり、

あるいは自然環境項目を対象から外し、

生活環境項目に限定した環境アセスメントのため

「生活アセス」と呼ぶこともあります。

簡易というからには比較対象が必要となりますが、

その比較対象は環境影響評価法または

環境影響評価条例に基づく環境アセスメントということになります。

こちらは「法アセス」または「条例アセス」と呼ばれ、

生活環境影響調査と比較してはるかに重い手続になっています。

なお、生活環境影響調査の根拠法令が廃棄物処理法で

あることをもって「ごみアセス」と呼ばれることもあります。

 

 

 

「廃棄物処理法で生活環境影響調査(ミニアセス)が必要」

という言葉を耳にすることがよくありますが、

具体的にどのような場面で生活環境影響調査が必要なのかというと、

やや曖昧にされてきた感があります。

廃棄物処理法では、廃棄物の処理、いわば中間処理や最終処分を行うに際し、

常に生活環境影響調査を求めているというわけではないのです。

廃棄物処理法の条文をよく読んでみると、

生活環境影響調査を求められる場面は2つに限られます。

ひとつ目は一般廃棄物処理施設の設置。

ふたつ目は産業廃棄物処理施設の設置。

つまり、廃棄物処理施設の設置に生活環境影響調査が

求められているということになります。

 

 

 

ここで問題なのが、一般廃棄物の中間処理

または産業廃棄物の中間処理を行なうにあたって、

「廃棄物の処理施設」は必ず必要になりますが、

「廃棄物処理施設」は常に必要とは限らない、ということです。

この話を初めて聞いた人はみな、最初は何を言っているのか

全く理解ができず、不思議な顔をします。

しかし、「廃棄物の処理施設」と「廃棄物処理施設」は

法律上は全く異なる概念なのです。

産業廃棄物を例に、廃棄物処理法15条1項を読んでみましょう。

 

 

 

【廃棄物処理法第15条1項】

産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設、

産業廃棄物の最終処分場その他の産業廃棄物の

処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を

設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を

設置しようとする地を管轄する都道府県知事の

許可を受けなければならない。

 

 

 

この条文は、「産業廃棄物処理施設を設置するには許可が要る」

ということを定めた規定です。では、「産業廃棄物処理施設」とは

一体なんなのかと言うと、その定義が15条1項の括弧書きに定められています。

括弧の中で「産業廃棄物の処理施設」かつ「政令で定めるもの」を

「産業廃棄物処理施設」と定義しているのです。

つまり、産業廃棄物を処理する施設の中で、特に政令に定めたもののみが

廃棄物処理法に定める「産業廃棄物処理施設」なのです。

政令の定めに漏れた「産業廃棄物の処理施設」は、

「産業廃棄物処理施設」ではないということになります。

「産業廃棄物の処理施設」は「産業廃棄物処理施設」を

包含するより大きな概念であり、この2つの概念は明確に

区別されなければならないのです。

 

 

 

政令というのは、廃棄物処理法施行令7条のことです。

施行令7条は、「産業廃棄物の処理施設」の中から、処理品目、

処理方法、処理能力の3つの要素で絞り込みを行うことで、

「産業廃棄物処理施設」を限定列挙しています。

限定列挙された「産業廃棄物処理施設」は、設置に許可を要し、

その際に生活環境影響調査が義務付けられているということになるわけです。

 

 

 

そうすると、廃棄物処理法15条、施行令7条に該当する施設かどうかは

施設の設置にあたっては極めて重要ということになります。

今回は詳しく書きませんが、廃棄物処理法15条に該当する施設を

都市計画区域内に設置するには廃棄物処理法の許可だけでなく、

建築基準法の許可(51条但書許可)が必要になる可能性(常にではない)があるのです。

 

 

 

生活環境影響調査を理解するためには、

この廃棄物処理法15条の該当性を判断しないといけないですし、

また中間処理を行なう施設の設計にあたっては、

産業廃棄物処理施設に該当する施設を設計するのか、

該当しない施設を設計するのかを予め確定させておく必要があります。

ここを曖昧にしたままに施設設計をおこなうと、

中途半端な施設になってしまう可能性があるのです。

 

 

 

廃棄物処理法では、「産業廃棄物処理施設」に該当しない「

産業廃棄物の処理施設」を設置するためには生活環境影響調査は不要です。

アセスなしで施設が作れるということで、

事業者にとっては好都合に思えます。

とはいえ、ここでは2つの注意点があります。

 

 

 

まず、ひとつ目の注意点。

法令上はアセス不要であったとしても、

自治体の指導要綱等で生活環境影響調査を求めていることがあります。

「産業廃棄物の処理施設」のみならず、積替保管施設

(これは「産業廃棄物の処理施設」ですらない)にまで

生活環境影響調査を求めている自治体もあります。

この場合の事業者側の対処法は、指導要綱に従い

生活環境影響調査を実施するか、指導要綱に従わず

生活環境影響調査を実施しないかのいずれかになります。

生活環境影響調査を実施することの事業者側のデメリットは、

費用や時間の負担が大きくなることと、

施設の設置による環境影響が大きく、環境保全措置の実施が難しい

ということになろうかと思います。費用や時間が一番大きくなるのは、

実は近隣住民の反対がある場合とも言えます。

一般的には、指導要綱に従って生活環境影響調査を

実施することがほとんどになろうかと思います。

 

 

 

ふたつ目の注意点。

これはひとつ目の注意点とも重なるところですが、

仮に「産業廃棄物の処理施設」にアセスが必要なかったとしても、

条例や指導要綱等で近隣住民との合意形成が求められることがあります。

合意形成の際には、住民説明会や近隣住民への

戸別訪問を実施することになるのですが、

その際に環境アセスメントを一切実施していないとなると、

環境影響をどのように説明するのかという問題に直面することになります。

環境影響の説明なしに、近隣住民との合意形成を果たすのは

なかなか難易度が高いため、事業者が自主的に

環境アセスメントを実施することがあります。

「自主アセス」と呼んでいますが、

自治体側(県の廃棄物部局や市の環境部局等)は

非常に好意的に受け止めて協力していただけるケースが多く、

トータルでの費用や期間も削減できる面もあって、

我々も必要と判断すればなるべく自主アセスを

提案するようにしています。

自主アセスは法令や指針の適用もないので、

事業者の予算感に合わせて柔軟に対応することができます。

たとえば、環境影響の中でも特に施設騒音に絞り込んだ

予測・評価のみを行うといったこともすることがあります。

近隣住民の環境への危惧が施設からの騒音問題に

集約されている場合などに、低コストで有効な対策になります。

(河野)