職業柄、「新規の廃棄物処分の許可は大変だ」という声をよく耳にします。

新規の廃棄物処理施設を設置したり、

廃棄物処理業の許可を取ることはとても大変だということは、

私は誰よりも心得ているつもりです。

ところが、この「新規の廃棄物処分業は大変だ」という言葉は

「許可が下りない」と変換され、独り歩きしている節もあります。

廃棄物処理業がどう大変なのか、

これを正確に理解できている人は、非常に少ないように思います。

今回は、廃棄物処理業の大変さが、

正確さを欠いたままに独り歩きしているということを書いてみます。

 

 

 

廃棄物処理業者や、行政手続を専門としている行政書士(私の同業者)と会うことがよくあります。

その際に「新規の廃棄物処分業の許可は大変だよ」

または「新規では廃棄物処分施設の許可は下りないよ」とよく言われます。

廃棄物処理業や廃棄物処理施設の許可は、

法令上の基準を満たせば本来は下りるべきものなのですが、

それが下りないという認識がかなり広まっているわけです。

それも、実際に廃棄物処理を行っている事業者や、

行政手続に精通しているであろう行政書士がそう口にするわけです。

 

 

 

そのような話をお聞きすると、私は毎回次のように質問を投げかけます。

「なぜ、新規の許可は下りないのですか?」と。

そうすると面白いことに、明快な答えがひとつも返ってこないのです。

「県が許可を出さない」等といわれる方がいますが、

「県のどこの部局が何法に基づいて許可を出さないというのですか?」

と質問すると答えが返ってくることはまずありません。

「県が受理しない」という方もいますが、

「それでは申請すると不許可になるのですか?」

というと黙り込んでしまいます。

 

 

 

私の見立てではありますが、廃棄物処理の許認可の世界はどうも噂が支配することが多く、「新規で出ない」とか「窓口が絶対に受理しない」

などという話が実しやかに語られています。

その割に、真偽を確認した人がほとんどいない。

噂話を耳にした私がぜひ知りたいのは、

「なぜ許可が下りないのか」ということなのです。

「許可が下りない」という言葉も多義的です。

許可申請が不許可になるのか、

申請が受理された後も行政指導が延々と繰り返されるのか、

行政が許可申請を受理することなく終わりの見えない事前協議を課すのか、

窓口が許可申請をしないように行政指導を行っているのか。

何をもって「許可が下りない」と言っているのかをまず明確にしなければ、

この許可が下りない問題の原因を読み解くことはできません。

 

 

 

「新規の許可が下りない」ことには、必ず原因があります。

その原因を把握せずしてどうせ許可が下りないからと

事業をあきらめることは、大きな機会損失です。

さらに、許可が下りないという噂話をもとにして、

建築基準法51条但書許可逃れ、アセス逃れ、

設置許可逃れをするというケースもときどき遭遇します。

原因を把握して適切な対応を検討せずに、

事業計画を変更して計画してしまうというのもやはり大きな機会損失です。

 

 

 

では「許可が下りないというケースは存在しないのか?」と問われると、

もちろん許可が下りないであろうケースを私は無数に見てきました。

ですので、許可が下りないことなどないというつもりはありません。

しかし、許可が下りないケースというものは、

「〇〇県だったら新規の処分施設の許可は下りない」とか

「焼却炉(埋立)の許可は一切下りない」のような

大上段から切って捨てるような話にはならないはずなのです。

 

 

 

廃棄物の処理施設の設置場所も事案によって全て異なります。

その土地には、法律だけでなく、

県条例や市条例がかかっているかもしれません。

これはその設置場所であるがゆえの法規制です。

また、土地はどのような地目で、

どのような都市計画上の用途地域の設定がされているのかも

設置場所により異なります。

廃棄物処理と一言で表現しても、

品目も違えば処理方法も千差万別です。

このような個別の案件ごとに大きく異なる事業に対して、

一律に「許可を下ろさない」というのはあまりに強引な言い方なのです。

 

 

 

施設が与える環境影響の差は立地に大きく依存します。

処理施設が山の中なのか、

住宅地の中なのか、

近隣に学校や病院等があるのかによって、

施設からの騒音や振動が与える環境影響は全く異なります。

排水を放流する河川の水量や、

その河川が下流域で農業や漁業に使われているか、

希少な水生生物がいるのかなども立地に大きく依存します。

さらには、施設に搬入搬出する車両が近隣の道路に占める割合によっては、

搬入搬出車両による環境影響も考えられるわけです。

 

 

 

廃棄物の処理施設には、環境影響を考慮した環境保全措置が求められます。

立地条件によってこれらの環境保全措置にかかるコストは大きく異なります。

もちろん、たとえば敷地境界には騒音規制法上の規制基準がありますが、

敷地境界の基準を満たしていることのみをもって環境影響がないと言い切れるわけではありません。

規制基準や環境基準を参考にしながらも、

近隣の環境に配慮した施設が求められるわけで、

当然のことながら住宅地等に処理施設を作るには山の中に比べ、

環境保全のためにかかるコストが膨れ上がるわけです。

 

 

 

行政指導により求められる

実効的な環境保全措置が不可能

(つまり何をやっても受忍限度を超えるような公害が発生する)

あるいは環境保全にかかる費用が大きすぎて

廃棄物処理を断念するケースもあるかと思います。

これも廃棄物処理の許可を出さないケースに

カウントされていると考えられます。

 

 

 

廃棄物の処理施設の設置に求められることが多いのが、

近隣住民との合意形成です。

この合意形成はしばしば「住民同意」と表現されることがありますが、

私は「住民同意」と合意形成は異なるものと認識しています。

住民同意は要綱などで、敷地境界から何メートル以内の住民のうち

何%以上の同意を求めるというものです。

「住民同意」を近隣住民に事業に対しての

阻止権を与えたものと解するのは問題があり、

これは要綱で行政指導として求められているに過ぎません。

とはいえ、「住民同意」を得なければ行政指導や

事前協議を無視して手続きを進めるということになり、

これは後々続いていくであろう事業にとって好ましいことではありません。

 

 

 

一方、合意形成といわれるものは、

条例で規定されているケースが多いですが、

事業者が近隣住民等に事業の趣旨と環境影響について説明し、

住民からの意見を求め、

その意見を事業に反映させていくという手続です。

同意は必要ありませんが、

質問とその回答のキャッチボールを事業者と住民が繰り返すことで、

相互理解を深めていくことになります。

どうも、「住民同意」と合意形成の区別が明確でないままに、

住民に拒否権があるという前提で

「廃棄物処理の許可が下りない」という話もお聞きします。

 

 

 

他には、廃棄物処理法ではない

他法令に抵触するために許可が出ないというケースもあります。

廃棄物の処理施設を作ろうと思えば、

本当に沢山の法令に抵触する可能性が出てきます。

都市計画法や建築基準法のみならず、

森林法、農地法、砂防法、文化財保護法など、

一見廃棄物処理と関りがなさそうな法令にまで及びます。

都道府県や市町村の条例を含め、このような法令によって

廃棄物の処理施設の設置が不可能という事例もあります。

 

 

 

たとえば、環境保全上、建屋内でしか処理できない廃棄物を処理する施設を

更地に建設しようとします。

しかし、その土地には廃棄物処理を目的とする建屋を建てることが法的に不可能ならば、

結局は廃棄物の処理施設は作れない、ということになるのです。

 

 

 

他にも、法律によっては審議会や委員会に諮られる案件があります。

審議会等には各種ありますが、

いわゆる有識者や学識経験者が審議を行うものです。

行政庁の審査は、法律に適合しているかどうかという基準で行われますが、

審議会等はそうではありません。

法律の基準を満たしていることのみをもって許可が下りるとは言い切れません。

有識者等の意見に事業者として答えていかなければならないのです。

このようなケースも「廃棄物処理の許可が下りない」

といわれるものの中に含まれているわけです。

 

 

 

廃棄物処理の許可が下りないケースには無数の類型があり、

その全てに法律上または事実上の理由が必ずあります。

その理由を正確に把握することなく、

事業計画を変更してうまく規制を逃れるようなことはできません。

私はどのような案件でも、納得できるまで許可が下りない理由を調査しています。

調査することで、噂が間違っていたこともあります。

噂を鵜呑みにすることなく、法令を調査しましょう。